THINK AGAIN【発想を変える、思い込みを手放す】

BOOK

著者と出版社

著者: アダム・グラント
出版社: 三笠書房
本書は、組織心理学者アダム・グラントによる一冊で、私たちが日常的に抱えている思い込みや固定観念をいかに手放し、新たな視点を取り入れていくかを詳しく解説しています。変化の激しい時代を生き抜くためには、過去の知識に安住するだけでは不十分であり、自分の考えを柔軟にアップデートし続ける重要性を説いている点が大きな特徴です。グラントは数多くの企業・組織のコンサルティングにも携わっており、本書の内容はビジネスだけでなく、教育や個人の学習、さらには対人関係にまで応用できる汎用性を持っています。

本書の内容

THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』では、私たちが抱えがちな認知バイアスや、過去の成功体験がもたらす思考の硬直化を解きほぐすための具体的なテクニックが紹介されています。特に強調されているのは、常に自分の知識や考えを「仮説」として捉え、必要に応じて修正する「リシンキング(考え直す力)」の大切さです。
グラントは、人間の思考が「説教師」「検察官」「政治家」「科学者」の4つのモードに分類されると指摘します。説教師や検察官のように、自分の意見を正当化し、相手を言い負かす姿勢ばかり取っていては、新たな発想を取り入れることが難しくなります。一方で、科学者のように仮説検証を繰り返す姿勢を習慣化すれば、絶え間なく変化が起きる現代社会でも柔軟に適応できるようになります。
さらに本書は、他者と対話しながらお互いの考えをアップデートしていくプロセスにもフォーカスしています。自分以外の人々の意見やアイデアに耳を傾け、それをどう活用していくか。本書では、単に「相手の意見を聞くだけでいい」といった抽象的なアドバイスではなく、「まず相手の視点を理解し、どのように質問を投げかけ、共感を示すか」という実践的な方法論を提示しているのが特徴です。

人間の思考の硬直化とその克服方法

知識の罠:「今の考えが正しい」と思い込む危険性

人間は、自分が過去に培った知識や経験を信頼しやすい生き物です。これは一見すると悪いことではありませんが、急速に変化する環境下では、逆に「今までの成功体験が足かせ」になる可能性が高まります。たとえば、かつてのビジネスモデルに固執した企業が、新たに参入したスタートアップに市場シェアを奪われるケースは少なくありません。この背景には、「自分たちのやり方が正しい」という先入観があるからです。
また、確証バイアスダニング=クルーガー効果アイデンティティ保守バイアスなど、多くの心理現象が私たちの柔軟な思考を妨げています。確証バイアスによって、自分の意見を支持する情報のみを集めてしまい、異なる視点に耳を貸さなくなる。ダニング=クルーガー効果によって、知識が十分でないのに「自分はよく分かっている」と思い込む。さらに、アイデンティティ保守バイアスによって、自分の意見を変えることが「自分自身の価値を否定すること」と同義だと感じてしまうのです。
これらの思考の罠を克服するには、「知識は常に不完全である」という認識を持つことがスタートとなります。最新の情報を得ようと学び続け、状況が変われば自分の結論を変えることも躊躇しない勇気が必要です。

思考の柔軟性を高めるための思考モード

グラントは、私たちの思考パターンを大きく4つに分類しています。

  • 説教師モード(Preacher Mode): 自分の主張を正しいと信じ、他人を説得することに注力する。
  • 検察官モード(Prosecutor Mode): 相手の考えや行動の誤りを指摘し、自らの正当性を証明しようとする。
  • 政治家モード(Politician Mode): 自分にとって有利な立場を守るために意見を柔軟に変え、周囲の支持を得ようとする。
  • 科学者モード(Scientist Mode): すべての考えを仮説とみなし、データや証拠に基づいて検証し、必要があればアップデートする。

説教師や検察官、政治家のモードでは、いずれも「自分が正しい」という前提が強調されがちです。一方で、科学者モードでは「自分が正しいかどうか」は結論ではなく、常に検証すべき対象となります。この科学者モードこそが、リシンキングの基礎となる思考姿勢です。状況やデータの変化に合わせて柔軟に意見を更新することで、長期的に見れば、大きな成果や成長を得られる可能性が高まるでしょう。

他人の考えを変える方法

人の考えを変えるのは難しいものです。相手を論破しようとすればするほど、逆に頑なな態度を招いてしまうことが少なくありません。本書では、「対話の仕方」に焦点を当て、次のようなアプローチが有効であるとしています。

  • 質問を投げかける: ただ結論を押し付けるのではなく、「なぜそう思うのか?」「その結論に至った根拠は?」と問うことで、相手が自らの論拠を見直すチャンスを与える。
  • 共感を示す: いきなり否定するのではなく、一度相手の立場を理解しようとする姿勢を見せる。こうすることで、相手の防御反応を弱め、建設的な議論を進めやすくする。
  • 自己決定感を尊重する: 相手に選択肢を提示したり、「あなたはどう思う?」と問いかけたりすることで、相手自身が考えを変えるきっかけを作る。

特に、共感と質問の組み合わせは効果的です。相手は自分の意見を全否定されると強烈な反発心を抱くため、まずは相手の感情や文脈を受け止める。そこから「もしこの部分が違っていたらどう思う?」といった質問を重ねていけば、相手の思考を徐々に揺さぶり、リシンキングを促すことができるのです。

リシンキングを促す環境づくり

個人がいくらリシンキングを意識しても、周囲の環境がそれを阻むものであれば、成果を出しづらいでしょう。そこで本書が提案しているのが、「組織や社会全体でリシンキングを促す文化づくり」です。

  • 心理的安全性の確保: 人は、失敗を指摘されたり、意見の相違があったりするときに、攻撃的な態度を取られると萎縮してしまいます。安心して間違いを認められる環境を作ることが、リシンキングへの第一歩です。
  • 学び続ける文化の醸成: 組織全体で、学習と成長を奨励する風土を作ります。定期的なワークショップや勉強会の開催、失敗事例を共有して改善策を討議する場を設けるなど、積極的に学びの機会を提供するのが効果的です。
  • 柔軟なリーダーシップ: 組織トップが自分の意見を頑なに守り通すのではなく、新たな情報が出てきたら方針を変更する柔軟性を見せることが大切です。リーダー自身がリシンキングの手本を示すことで、組織全体に「考え直すことは良いことだ」というメッセージが伝わります。

これらの取り組みは、ビジネスにとどまらず、あらゆる集団やコミュニティで有効となります。学校での学習や地域活動、さらには家族内での意思決定でも、リシンキングの文化が大きな力を発揮するでしょう。

所感

本書を読んでまず感じたのは、「人は誰しも自分が正しいと思いたい」という根源的な欲求があるということです。知識をたくさん得るほど、自分の理解や能力を高く見積もってしまい、間違いを認めにくくなる。その一方で、知識が少ない人ほど自信過剰になるダニング=クルーガー効果も、別の方向で同じ問題を生み出します。
しかし、著者が強調する「科学者モード」の思考を身につけると、自分の考えを検証すべき仮説として扱うことができます。これは、ビジネスだけでなく日常生活でも役に立つ考え方だと感じました。たとえば、家庭内でのちょっとした口論でも、「本当に自分の意見は正しいのか?」と自問し、相手の視点を検証してみる習慣を持つと、無用な争いが減るかもしれません。
さらに、本書で紹介されている「他人の考えを変える方法」は、コミュニケーションにおいて非常に有益だと感じました。とりわけ、「共感と質問」が対話を円滑にするという点は、職場でのチームマネジメントや、顧客との交渉にも応用しやすいと考えられます。自分が間違っている可能性を常に頭に置きながら、相手を否定するのではなく、一緒により良い答えを模索する。この姿勢こそが、リシンキングを個人レベルから社会レベルへと広げていく起爆剤になるのではないでしょうか。
結果的に、本書は「自分は常に学び続ける未完成な存在である」という事実を受け入れ、変化を恐れずに自分の知識や意見をアップデートし続ける意義を、具体的な事例とともに示してくれます。思い込みを手放し、新しい発想を受け入れることで、人生のあらゆる面において豊かさと成長を手に入れられる可能性が大いに広がると感じました。

まとめ

  • 『THINK AGAIN』は、「リシンキング(考え直す力)」を鍛えるための具体的な方法を示し、過去の成功体験や知識に固執しない柔軟な思考法を説いている。
  • 私たちは説教師や検察官、政治家の思考モードに陥りがちだが、科学者のように仮説検証を繰り返すことで思考の硬直化を避けることができる。
  • 他者とのコミュニケーションでは、「質問を投げかける」「共感を示す」「相手の自己決定感を尊重する」といったアプローチが相手のリシンキングを促すうえで効果的。
  • 心理的安全性を確保し、失敗や意見の相違を歓迎する文化を育むことで、組織や社会全体がリシンキングの恩恵を受けられる。
  • 人間は誰しも不完全な存在であることを認め、データや証拠に基づいて自分の考えを更新し続ける姿勢が、激変する時代を生き抜く鍵となる。
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プロフィール
あつお

読書で得た知識をAIイラストとともに分かりやすく紹介するブログを運営中。技術・ビジネス・ライフハックの実践的な活用法を発信しています。趣味は読書、AI、旅行。学びを深めながら、新しい視点を届けられたら嬉しいです。

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