著者・出版社情報
著者: 道野 正
出版社: 有限会社マーズ
概要
『料理人という生き方』は、30年以上にわたり料理人の道を歩んできた道野正氏の経験と哲学を凝縮した一冊です。単なるレシピ本や業界裏話に留まらず、プロフェッショナルとして継続する力をどう育み、どう応用するかを深く掘り下げています。長時間労働という過酷な現場、激しい競争社会、その中でも「好きなことを仕事にし続けるための工夫」や「長期的に自己を成長させるための視点」が丁寧に描かれているのが特徴です。さらに、料理の写真や具体的な調理エピソードも豊富であり、ビジュアル面からも楽しめます。
本書は、料理を仕事にしている人だけでなく、「自分の好きなことを長く仕事にしていきたい」というすべてのビジネスパーソンにとっても示唆に富む内容です。専門技術を磨く際の姿勢や、モチベーションを維持するコツ、人間関係の築き方など、多方面に応用可能な考え方が散りばめられています。
活用法
本書は料理人のキャリアに焦点を当てつつも、「長期間、同じ情熱と探究心を維持しながら仕事を続けるにはどうすればいいか」という普遍的なテーマに応えてくれる良書です。以下では、とくに活用法を多めに紹介します。
1. 新人・若手の料理人として読む
1) 基本技術の重要性を再認識
著者が最も強調するのは、包丁の握り方、火加減、塩加減などの基本がいかに大切かという点です。例えば、フレンチのソースづくりでも、ベースとなる出汁やルーがしっかりしていなければ味が調和しない。若手のうちにこの「基礎力」の価値を知り、一つひとつ手を抜かず学んでおくことで、後年になって創作やアレンジをする際に大きなアドバンテージとなります。
2) メンタル面での鍛え方
厳しい修行や深夜まで続く仕込みなどで挫折しがちな若手でも、著者の体験を追体験することで「自分だけが苦しいわけではない」という気づきを得られます。どんなときに休息を取るか、どうやって気分転換をするかなど、修行時代の具体的エピソードが参考になるでしょう。先輩からの叱責にどう対処し、自分のプライドをどのようにコントロールするか、といったリアルな話が新人の悩みを和らげてくれるはずです。
2. 中堅・リーダー層の料理人が読むとき
1) 後進の育成とチームビルディング
ある程度キャリアを積んだ料理人がさらにスキルアップするためには、自分が学んだことを後輩に伝えたり、チーム全体の生産性やクオリティを向上させる視点が欠かせません。著者の経験談では、長らく独学や一匹狼でやってきたわけではなく、うまく周囲と連携しつつも自分のスタイルを守る術を培ってきたことが示されています。若手がどんなポイントでつまずきやすいか、どういうときにモチベーションが上がるかなどの知見は、リーダーシップ発揮に直結します。
2) メニュー開発や経営視点への応用
中堅層は、ただ料理を作るだけでなく、メニュー構成や原価管理、人事管理にも関わることが多いでしょう。本書に登場する「どう新メニューを考案するか」「食材のコストと高品質をどう両立するか」という視点は、リーダーとして経営感覚を養ううえで有益です。特に独立開業を考えている人は、「味さえ良ければお客が来る」わけではない現実を理解し、売上や収支の見方を学べる契機になるかもしれません。
3. 他業種のビジネスパーソンが参考にする
1) 長期的キャリア形成のヒント
著者が30年以上、料理一筋できた中でも「くじけそうになったこと」「迷った時期」が何度もあったと述懐しています。これはITや製造業、クリエイティブ産業など、どの分野でも似たような悩みが起こりえます。「続ける」ことに意味がある仕事では、目の前の成果が出ない期間をどう過ごすかが大切。本書のエピソードを読み、自分の業界に置き換えて考えることで、忍耐力や信念を再確認できるでしょう。
2) 一流技術者の「モノづくり思考」を学ぶ
料理は最も身近な「モノづくり」ですが、その根底には素材選び、加工技術、顧客満足を結びつけるシステム思考が存在します。エンジニアや職人系の仕事をしている人にとって、著者が素材の特徴をどう分析し、火入れをどう最適化するかを説明する部分は、モノづくり一般に通じるプロセスとして非常に参考になるはず。「無駄をそぎ落とす」発想や「手間を惜しまない」姿勢がいかに品質向上に結びつくかを学べます。
3) イノベーション思考と異分野との融合
著者が同業者ではなく美術館や映画からヒントを得る話は、新しいアイデアやサービスを作り出す際に「異分野に目を向けるべし」とよく言われるのと同じ。IT分野なら、アナログ領域からインスピレーションを得る、ファッション業界なら工学の技術を取り入れるなど、業界の壁を超えたアプローチがイノベーションには不可欠です。本書を通じて、そうした「壁を超える勇気」の大切さを再認識できるかもしれません.
4. 趣味で料理を楽しむ人・食通への楽しみ方
1) レストラン巡りの視点が変わる
プロの料理人が何を考え、どんな工程を踏んで料理を仕上げるかを知ると、外食するときの「見るポイント」が大きく変わります。皿の上の小さな工夫(素材の組み合わせや盛り付けの意図)を読み取り、「ああ、ここでこういう技術が使われているのか」と発見できるのが楽しくなるでしょう。
2) 家庭料理への応用
家庭での料理でも、「この調味料を使うことで素材の持ち味が活きる」という考え方はそのまま活かせる可能性があります。もちろんプロの技を完全再現は難しいかもしれませんが、ちょっとしたこだわりや工程の省略・代替法についても著者のアドバイスをヒントに実践してみるのも面白いはずです。
所感
全編を通じて感じるのは、著者の「料理は総合芸術」という捉え方です。素材をどう生かすか、香りや盛り付けで何を表現するか、さらに食べる人にどんな体験を提供するか。その全てが「美味しさ以上の感動」を生む要素になっているのだと、本書は教えてくれます。
また、「続ける」ことと「挑戦する」ことを両立させるのは至難の業ですが、著者は30年以上も試行錯誤を重ねてきた実例を具体的に示しています。失敗や壁にぶつかった時、どうやってそれを糧にして次のステップへ進んだのかがリアルに描かれているため、自分自身のキャリアや生き方を見直すきっかけになるはずです。
まとめ
- 30年以上フレンチを極めてきた道野正氏が、料理人としての技術・精神・経営視点を語る一冊
- 若手には「基本技術の徹底」や「メンタル管理」、中堅層には「後進育成」や「経営視点」の重要性を示唆
- 他業種にも応用可能な「長期キャリア形成」や「異分野からのイノベーション」へのヒントが多い
- 職人気質にとどまらず、アートからの着想やサービス品質への配慮など、「総合芸術としての料理」の魅力を追求
- 料理人だけでなく、自分の仕事・キャリアを30年単位で深めたいすべての人におすすめの良書
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