スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス【最先端テクノロジーをテーマにした、ミステリー小説】

BOOK

著者・出版社情報

著者:志駕 晃
出版社:宝島社
出版年:2021年(発売)
ジャンル:サイバーサスペンス / ミステリー

概要

「スマホを落としただけ」から始まる戦慄が、国家規模のサイバーテロへと発展する恐怖
スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス』は、サイバー犯罪を題材にした志駕 晃の人気シリーズ第3作にあたる長編小説です。前作・前々作において、スマホの紛失やハッキングによる個人の恐怖が描かれていたこのシリーズですが、今作では東京オリンピックを舞台に、想像以上に大きな国家規模の陰謀へと物語が広がっていきます。

思いもよらない形でスマホを拾う・落とすといった日常的な行為がきっかけとなり、社会全体を巻き込む凶悪犯罪へとつながる“現代の脆弱性”を、著者は鋭く描き出します。スマートフォンという身近で便利なツールが、実は私たちの生活を丸ごと掌握し、時に破滅的な被害をもたらす可能性を本作品は改めて突きつけるのです。
シリーズを通して背景にあるのは、ネットワーク化が進む社会と、それを巧みに利用する犯罪者との攻防。『戦慄するメガロポリス』というタイトルが示すように、“スマホを落としただけ”という些細な出来事から、読者は現代社会の情報セキュリティがいかに脆いかを思い知らされると同時に、サスペンス小説としての高いエンターテインメント性を味わうことができます。

考察

スマホ紛失から国家危機へ:日常の些細なミスと巨大な陰謀の落差

近年、スマートフォンは私たちの日常に欠かせないツールとして定着し、友人・家族との連絡やSNS、オンラインバンキングなど、あらゆる情報が詰め込まれています。だからこそ、「スマホを落とす」という何気ない事故が、個人情報の漏洩やSNS乗っ取りといった大きな問題を引き起こす——このシリーズはその恐怖を斬新に描き、話題を呼んできました。

そして今回、東京オリンピックを控えた日本が舞台になることで、小さな落とし物だったはずのスマホが国家規模のテロを招く可能性を示す内容に“スケールアップ”が図られています。犯人たちが狙うのは、大会の運営システムや都市インフラをハッキングし、一気に社会を混乱へと陥れること。
この展開が読者に与える衝撃は大きく、いつものように「ちょっとスマホを失くしただけ」で済むわけがない緊張感が物語の頭から終盤まで張り詰めています。まさに“些細な行為”“大惨事”の距離が急速に縮まった現代社会を象徴するような構造です。

読者としては“東京”というメガロポリスが舞台となることで、“世界中から注目されている祭典”の裏で何が起こるのかとワクワクしながらも、サイバー犯罪の凶悪性や北朝鮮をはじめとする海外勢力の不気味さにじわじわとした恐怖を掻き立てられます。日常の足元がいつ崩れるか分からない、その“突き抜けた不安”こそが本シリーズの核と言えるのです。

サイバー犯罪描写のリアリティと“異常なトリック”の組み合わせ

本作の真骨頂は、著者・志駕 晃が持つサイバーセキュリティITテクノロジーに関する深い造詣を背景に、犯人たちが駆使するハッキング手法や犯行トリックを非常に緻密かつリアルに描いている点です。
・SNSの乗っ取り
・GPS情報や位置データの書き換え
・遠隔からのカメラ・マイク操作
・インフラの管理システムに潜り込み大規模混乱を引き起こす計画
こうした犯罪テクニックが盛り込まれ、読者は「もはや物理的な距離やアリバイの概念が無力化される恐怖」を肌で感じることになるでしょう。

通常のミステリーであれば、犯人が現場から離れていればアリバイが成立しやすいもの。しかし、このシリーズではデジタル空間が現場と化すため、犯人はどこにいようと関係なく犯行を行え、常にこちらを監視しているかもしれない……という“全方位的な脅威”が描かれます。北朝鮮にいるはずの犯罪者が簡単に東京を揺るがす展開は、読者にとって衝撃的なリアリティをともなうわけです。
しかも、本作ではオリンピック関連施設への攻撃や公共インフラ操作など、より大きな混乱を生むトリックが満載で、前作以上にスリリング。読んでいるうちに“自分のスマホも実は危ないのでは?”という“被害者意識”が疼きだし、作品世界へののめり込みを加速させます。

国家規模のサイバーテロと“身近な事件”の融合

本シリーズの大きな魅力は、“日常的な行為”“社会的・国家的陰謀”を一気に結びつける点です。実際にスマホを落とすのは誰にでも起こり得るし、ネット経由で遠隔攻撃されることも珍しくない時代。
そこに「オリンピック」という大舞台が加わることで、国際テロ政治工作の脅威が肉薄。犯人がどこか遠くの国にいようと、サイバー空間で日本の心臓部を握ってしまうという展開は、現実のニュースでも驚くほどよく聞くシナリオの延長線上にあります。
また、本作で特徴的なのは“浦井光治”という天才ブラックハッカー兼連続殺人犯が“北朝鮮”にスカウトされ、彼らの意向に沿ったサイバーテロを計画する部分。ここで描かれる北朝鮮のアプローチや情報戦は、単なる空想を越え、現実世界の国際情勢とも微妙に重なります。まさに“フィクションと現実の境目”が曖昧になる感覚が、この作品のスリルと説得力を倍増させているのです。

シリーズを貫く“スマホ依存社会”への警鐘と深化

本シリーズを通じて繰り返されるテーマは、「スマートフォンが人々の生活を支配し、それを悪用されれば人生が崩壊しかねない」という現代の危機感です。
第1作『スマホを落としただけなのに』では、一台のスマホ紛失が個人の生活や人間関係を破綻させる恐怖を中心に描きましたが、第2作以降、物語は徐々に規模を拡大し、今作ではもはや“国全体”を巻き込むほどの威力を秘めていることを示しています。
私たちは「スマホ=プライベートな所有物」と考えがちですが、そこにはクレジットカード情報家庭・職場の重要データ、そして位置情報などまで詰まっています。こうした個人デバイスが大量に普及し、それぞれがネットにつながっている社会では、一部が攻撃されるだけで連鎖的に社会インフラが壊滅的打撃を受けるリスクがあるのです。
本作を読むと、“私もスマホを落としたら同じ目に遭うかもしれない…”というリアリティが、シリーズ中でもとりわけ強調されています。便利すぎる技術に慣れきった現代人にとっては、「本当にこのままで大丈夫?」と考えさせられる、強烈な警鐘となるでしょう。

人間ドラマと陰謀が織り成すスリル:シリーズのさらなる進化

『スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス』の大きな見所は、多彩なキャラクターの視点が同時進行で描かれる点にあります。
例えば、日常に潜む危険を全く想定していなかったOLの粟野有希が事件に巻き込まれ、命の危険にさらされる。その一方で、神奈川県警の刑事・桐野良一が北朝鮮のサイバーテロを察知し、捜査に駆り出される流れが描かれます。連続殺人犯の浦井光治という凶悪ハッカーも登場し、国家的大イベントである東京オリンピックを狙う巨大計画に加担するなど、多面的なドラマが展開されるわけです。
こうした複数のプロットが絡み合うことで、“スマホが引き起こす事件”と“世界を揺るがす陰謀”がひとつのストーリーラインに収斂。最終的には全員がひとつのゴールへ向かって突き進み、サイバーテロの阻止を賭けた緊迫のクライマックスを迎えます。この多層的な組み立てとスリリングなテンポが、本作を“シリーズ最高の山場”と感じさせる要因の一つと言えるでしょう。

所感

テクノロジー×ミステリー:現代社会に根差した新時代の恐怖を描き出す
本作を読んでいると、「スマホ紛失」「SNS乗っ取り」「クレジット情報漏洩」など、私たちにとって身近すぎる被害が次々と登場してゾッとする一方で、それを遥かに超えるスケールで東京オリンピックを狙うサイバー攻撃が繰り広げられているのが非常に刺激的です。
従来のミステリーと違い、“物理的な証拠”や“アリバイの制約”がサイバー空間の中ではあまり通用しないという点が、読者に新鮮な不安感を与えます。誰がどこからアクセスしているのか、遠隔操作で何が可能になるのか、どんな嘘の情報がSNSに流されているのか、一瞬の油断で人格や社会的信用すら危機に陥るかもしれない——そんな予感にずっと胸が締め付けられるのが本作の醍醐味です。

「たった一つの落とし物」がもたらす連鎖が残酷すぎる……
読んでいる最中、私たちは“スマホを落とす”ことがどれほど重大かを思い知らされます。シリーズ第1作のように、そこから個人生活が破綻していく恐怖も十分強烈でしたが、今回は更に都市や国を巻き込む混乱へ結びつく可能性が描かれており、その点で衝撃は格段に増しています。
その上、ハッカーらが活用する手法も高度化し、個人の対策だけでは防げない面が多分に含まれているあたりがまたリアルなのです。パスワードを複雑にしようが、指紋認証を使おうが、敵が組織的に狙ってくるならどうにもならない状況に陥る——この逃げ場のなさがシリーズファンにはたまらない緊張を与えてくれます。

まとめ

“スマホを落としただけ”で戦慄するメガロポリス:日常と隣り合うデジタル恐怖の集大成
スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス』は、テクノロジーが根を張った現代社会だからこそ生まれる新種のミステリーを、さらなるスケールアップで描いた意欲作と言えます。北朝鮮のサイバー攻撃や東京オリンピックの混乱など、大きな社会問題を切り込みながら、個人の日常レベルの不安と国家的陰謀を巧みに結びつけている点が読み応え十分です。
志駕 晃の描くリアルなハッキング手法SNSの落とし穴は、一見難解に感じるかもしれませんが、ミステリーとしての分かりやすい構成と組み合わさり、読者はページを捲る手を止められなくなるでしょう。次々と迫る緊急事態の連鎖を追いながら、果たして主人公たちはどう対抗し、日本を危機から救えるのか。
作品を閉じた後には、「スマホを落とすなんてありふれた事故が、こんなにも恐ろしい事態を招き得るなんて……」という現実との境界が曖昧な戦慄が残り、自分の情報管理を見直さずにはいられなくなるはず。
もし、現代社会でのサイバー犯罪に少しでも興味や不安を抱えるなら、本作はその恐怖と解決策を同時に示唆する一冊です。エンターテインメントとしての面白さと、読後に残る“デジタルリテラシー”の重要性への啓発が見事に融合した『スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス』。シリーズファンはもちろん、新たに手に取る人にとっても、大いに刺激的で考えさせられる読書体験となることでしょう。

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あつお

読書で得た知識をAIイラストとともに分かりやすく紹介するブログを運営中。技術・ビジネス・ライフハックの実践的な活用法を発信しています。趣味は読書、AI、旅行。学びを深めながら、新しい視点を届けられたら嬉しいです。

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