著者:バリー・オライリー
出版社:ダイヤモンド社
リスキリングの真髄
新しく何かを学ぶためには、何かを捨て去る必要がある。コップに水を注ぐ時、そこに水が満ちているのに永遠に注ぎ続ける人はいないだろう。しかし知識ではそれと同様のことを多くの人が行っている。既に古い既成概念にとらわれているのに、新しい情報を永遠に垂れ流しているのである。何かを学ぶためには学びを捨て去ること、すなわちアンラーニングが必要なのである。そのノウハウを語る本書の主な内容は、以下の通りである。
1. 脱学習と再学習
何かを学ぶためには、自分の考えや知識をアップデートする必要がある。すなわち、自分の中に誤りがあることを受け入れる必要があるのだ。そのためには科学者のようなマインドが必要になる。日々行っている事は実験であり、何か失敗したとしても、それは成功のためのチャンスである。そこからヒントを得て、自分が理想とする姿へ移行するために次なる手を打つ。その繰り返しにより、理想のラーニングが可能となる。
2. ブレークスルー
そうした固定概念にとらわれない学び方をしていると、時々従来の改善の積み重ねでは成し遂げられない成果を得られることがある。例えば、自動車業界におけるテスラの台頭がそうであろう。現在のガソリンエンジンを動力とする自動車は約100年前に存在した。その当時から現代まで、自動車は一部の企業しか製造できない精密機械であった。しかし、バッテリーをエネルギー源とし、モーターを動力源、そして優秀なソフトウェアを搭載することで、自動車に新たなモビリティーの価値を付加した。本質を突き詰め、常識にとらわれない学びをすることで、従来にはなかった成果を得られるのである。
3. 企業のアンラーン
こうしたアンラーニングを実践するには、企業内での文化の醸成が必要であろう。そのためには、まずマネジメントが手本を示すことが有効である。自分たちが新しい意見に寛容であることを示し、自分たちを否定する意見であっても積極的に取り入れる。新しいことは常に挑戦するように奨励し、現場の意見を最優先にする。そして、古い意見を捨て去るようなインセンティブが働くようにシステムを調整する。そういった工夫の数々により、会社全体にアンラーニングの文化が広がっていく。
所感
何かを捨て去るのは、何かを付け足す以上に難しいこと。しかし、ここで日本人のわびさびの心が働いてくるのであろう。日本では、余計なものを捨て去り心に重要なものを残すことによって、美しさを強調する文化がある。また、ミケランジェロの彫刻も、材料から余計なものを削ぎ落とすことにより本質が見えてくるという。余計なものを持っていることで生じるコストを意識し、本当に重要なものを何か見極め、そこに集中する勇気を持ちたいと思う。
アンラーニングの概念は、一見シンプルに思えるかもしれないが、実践するには深い洞察と勇気が必要である。私たちは過去の成功にしがみつき、新しい挑戦を恐れることが多い。しかし、本当に進化し続けるためには、時には過去の成功を手放し、新たな可能性に目を向ける必要がある。これにより、個人としても組織としてもさらなる成長が期待できる。
まとめ
『アンラーン戦略』は、古い固定概念を捨て去り、新しい知識やスキルを身につけるための道を示している。私たちは日常生活や仕事において、常に学び続けることが求められる。しかし、ただ学ぶだけでは不十分であり、時には過去の成功や知識を手放す勇気が必要である。本書を通じて、アンラーニングの重要性とその実践方法を学び、より柔軟で創造的な思考を持つことができるだろう。
私たち一人ひとりがアンラーニングの精神を持つことで、個々の成長だけでなく、組織全体の革新と進化を促進することができる。この本は、そのための具体的なステップと方法を提供してくれる。過去にとらわれず、未来に向けて進化し続けるために、ぜひ本書を手に取り、実践してみてほしい。