著者・出版社情報
著者: ビリギャル本人さやか
出版社: サンクチュアリ出版
概要
『私はこうして勉強にハマった』は、映画『ビリギャル』で話題となった小林さやかさん(ビリギャル本人さやか名義)が、自身の学習体験を振り返り、「勉強嫌い」から「勉強好き」へと大きく意識を変えるに至ったプロセスを赤裸々に語った一冊です。
もともと成績最下位で、学校にもほとんど興味を示さなかった著者が、なぜ慶應義塾大学合格という大きな目標を掲げ、見事に達成してみせたのか。その根底にあったのは「学びをゲームに変換する発想」と「周囲を巻き込む勇気」、そして「少しの成功が大きな成果を呼ぶ」という自己効力感の強化でした。さらに現在ではアイビーリーグの大学院にまで進み、新たな挑戦を続ける著者の姿が、「やればできる」という言葉を説得力あるものにしています。
主要テーマ
1. 勉強が嫌いだった高校時代
著者は高校時代、遊びやバイトに熱中し、授業もろくに聞かない「勉強とは無縁」な生活を送っていました。家庭の中でも、厳しく勉強を強いられる雰囲気はなく、本人も「自分は頭が悪いからしょうがない」とどこかで諦めていた節があったといいます。さらに、周囲からも「やる気がない子」と見なされていたことで、「学習が自分に向いていない」という先入観がどんどん強化されていきました。
この時期の著者は「学ぶ喜び」をほとんど知らず、テストで赤点を取っても深刻に考えることもないほど勉強に対する意識が低かったそうです。しかしその一方で、将来に対する不安や「このままでいいのか」という漠然とした疑問は、心の片隅に存在していたとも振り返っています。
2. 塾講師との出会いで勉強が一変
そんな彼女にとって人生の大きな転機となったのが、塾講師・坪田信貴先生との出会いでした。映像化でも取り上げられたように、坪田先生は著者に対して「あなたは本当はできる」と繰り返し語り、彼女の学力を否定せず、むしろ未知の可能性を信じるスタンスを取り続けました。
この指導方針は、著者に「勉強はつらく苦しいだけのものではない」「知識を得ると、世界が違って見える」という新鮮な気づきを与えます。それまで「何のために勉強するの?」と思っていた彼女が、「そっか、知るって面白いかもしれない」と思うようになった瞬間は、大きな意識の転換点でした。
所感
- ゲーム感覚でタスクを細分化する:
本書を読んで感じるのは、著者が勉強を“一気にまとめてやる”のではなく、こまめなタスクをクリアするというゲーム的なアプローチにシフトしたことの重要性です。大きな範囲の暗記や大量の宿題をそのままやろうとすると、人は往々にして挫折します。しかし、たとえば英単語10個だけ、数学の問題集1ページだけ、とハードルを下げた小ミッションを積んでいくと、クリアのたびに達成感が味わえる。
これがどれほど強力なモチベーションになるかを、本書は具体的なエピソードを通じて教えてくれます。ほんの少しの成功体験が「自分にもできる」という手応えを育て、それがさらなる学習意欲へと連鎖していくわけです。こうした手法は受験だけでなく、資格試験や普段の仕事にも適用しやすい、普遍的なメソッドだと思われます。 - 周囲への宣言でモチベーションを維持:
著者が大学受験を決意したとき、まわりに「慶應を目指す」と公言したことにより、応援してくれる人と、否定する人がはっきりと分かれたといいます。前者の存在はもちろん励みになり、後者については「何くそ」という意地に火をつけ、どちらもプラスのモチベーションに変えてしまう発想が興味深いです。
これは心理学的にも、「公に目標を言うことで実行力が高まる」とされるシステムを体現している例です。宣言してしまえば後に引けないし、もし弱気になった時でも周囲からの声が思わぬ形で支援やアドバイスをくれるかもしれない。自分一人で黙々と勉強するより、よほど強い心の支えになるという点が大きな学びとして感じられます。 - 義務感を超え「やりたい学習」へと変換:
多くの学生は「親や学校からやれと言われる勉強」を嫌々する経験をするでしょう。しかし著者の場合、慶應合格という目標を共有するうちに、「勉強って意外と面白いかも」「もっと知識を増やせば世界が変わるのかも」という当事者意識が芽生えました。この瞬間から、勉強は苦行ではなく“自分でやりたいこと”にシフトし、学習の質も大きく変化したといいます。
この変化が彼女の成長の原動力となり、結果的に「ただのギャルが慶應に」という大逆転を果たすわけですが、ここには「モチベーションはどこから来るか?」という普遍的なテーマが浮かび上がります。外的動機(親や教師の指示)だけでは長く続かないからこそ、内的動機(自分がやりたい、興味ある)へどうつなげるかが鍵だと、本書は示しているのではないでしょうか。 - 小さな成功体験が「やればできる感」を育てる:
テストや模試の成績が少し上がると、それが次の勉強へのモチベーションになる。点数が2桁から3桁に変わったときの喜びは計り知れず、さらに高みを目指そうという気持ちを引き出してくれる。こうした心理的プロセスが、たびたび著者の体験として綴られています。
これを自己効力感と呼びますが、本書はそのエッセンスを非常にわかりやすく示しています。「ちょっとできるようになる」感覚こそが、人にとって最高のモチベーションになり得るのです。苦手な分野であればあるほど、1点でも2点でも伸びる喜びは大きく、そこに注目し続けることで大きな目標に近づく。著者の方法論は、学習心理学の考え方と合致していると感じました。 - 学びが人生を大きく変える力:
本書は勉強本というよりも、「学びによって人はどこまで変われるか」という人間ドラマが描かれたストーリーに近い印象を受けます。慶應に合格したことは象徴的な結果であり、それよりも大きいのは勉強を通じて著者が得た自己肯定感や挑戦意欲、そして周囲との信頼関係です。これが結果的に彼女をアイビーリーグの大学院へと導き、さらにその先の夢へと向かわせる大きな原動力になっているのです。
「勉強は単なる点数のため」「試験が終われば忘れていい」という短絡的な捉え方ではなく、学びこそが自分を高め、未来を切り拓くツールだという視点を、本書は読者に強く伝えてくれます。
まとめ
タスクを小さく区切り、成功体験を積む
大きな目標をいきなり達成しようとするのではなく、今日は英単語10個、明日は数学の問題5題といったように細分化し、クリアするたびに達成感を味わう。これが長続きの秘訣であり、モチベーションの源泉となる。
周囲への宣言と応援の活用
大学受験を決心したとき、目標を声に出して伝えることで、応援してくれる人と否定的に見る人の両面を活用し、「後戻りできない」環境を作り出す。これは学習だけでなく、あらゆる挑戦の場面でも有効な戦略だと感じられる。
義務から「やりたい」へ意識をシフト
家庭や学校から強制されるだけでは続かない勉強も、「自分が将来こうなりたい」というビジョンにつなげれば、やらされる苦行ではなく能動的な活動に変わる。ここで一気に学びの質が跳ね上がるという。
小さな成功体験が自己効力感を育む
テストや模試でわずかでも成績が上がれば、それが次の学習への大きなモチベーションとなる。こうした好循環を起こすことで、「まさかの大学合格」「自分でも想像しなかった新領域の挑戦」が実現する。
本書『私はこうして勉強にハマった』は、単なる受験成功のノウハウにとどまらず、「勉強によって得られる自己変革の楽しさ」をメインテーマに据えています。「ビリギャルは特別だから」と思う向きもあるかもしれませんが、彼女自身、もともとは学習に対して徹底した苦手意識と抵抗感を抱いていた人物。
しかし、ゲーム感覚のタスク分割や周囲のサポート、自分が本当に勉強を「やりたい」と思えるようなマインドチェンジにより、いつの間にか「勉強大好き人間」に近い姿へと変わっていったと言えます。そのプロセスは私たちにも取り入れやすく、どのフェーズでも「やってみよう」と思える具体的なヒントが散りばめられているのが嬉しいところです。
もし「勉強が嫌い」「やっても成果が出ない」と感じているなら、この本が意識を大きく変えるきっかけになるかもしれません。ちょっとしたコツで「やらされる学習」から「自ら進んでやりたい学習」に変わる魔法——本書は、その魔法を誰でも習得できると優しく教えてくれる一冊です。以上の経験談と具体策を通じて、読者は勉強へのモチベーションを上げるだけでなく、人生のあらゆる挑戦で使える“やればできる”マインドセットを得られるでしょう。
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