星の王子さま【本当に大切なものに気づかせてくれる小説】

BOOK

著者・出版社情報

著者:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
出版年:1943年
出版社:新潮社
ジャンル:児童文学 / 哲学的寓話

概要

目に見えない「大切なもの」を教えてくれる寓話
『星の王子さま』は、フランスの作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが1943年に発表した作品であり、単なる児童文学にとどまらず、深い哲学的テーマを内包する寓話です。
「大切なものは目に見えない」という有名なフレーズが示すように、人生において真に価値あるものとは何か、人と人との間にあるとはどういったものなのかが、美しい物語を通して問いかけられています。
本作は世界中で翻訳され、多くの言語で愛読されています。その人気の理由は、子供から大人まで幅広い世代が読み解くことのできる多層的なメッセージにあります。物語の体裁こそ童話ですが、実際には大人になったからこそ気づける、人生のはかなさや人間関係の大切さが詰まっているともいえます。
物語は飛行機の故障でサハラ砂漠に不時着した「ぼく」(飛行士)が、「星の王子さま」と名乗る不思議な少年に出会うところから始まります。王子さまが辿ってきた旅の数々、そして彼自身の過去や心情を聞くことで、読者は忘れかけていた純粋な心と、いつの間にか大人になる過程で遠ざけてしまった大切なものを思い出すことになるのです。
その根底には、「本当に豊かな時間」「心から夢中になれる瞬間」がどれほど尊いかを改めて認識させてくれる視点があります。年収や名誉、権力などを追い求めても、心が満たされないまま過ぎ去ってしまう人生と、子供のころに抱いた純粋無垢な願いとの対比が、本書の随所に描かれていると言えるでしょう。

考察

子供の視点と大人の視点:なぜ王子さまは旅に出たのか

王子さまが自らの星を離れ、さまざまな星を旅する理由は「自分の星にいるバラとの関係」に戸惑いを覚えたからでした。唯一無二の存在として愛しながらも、その態度や言葉に混乱し、星を飛び出してしまったのです。ここには、人が自分の身近なものを理解しきれずに外の世界へ答えを探しに行く、という普遍的なテーマが潜んでいます。
子供の頃は、わからないことがあれば素直に尋ね、誰かを愛すればその気持ちをまっすぐ表現します。けれど、大人になるにつれ「世間の常識」や「プライド」が邪魔をして、わからないことを質問できなくなり、素直な気持ちを表に出せなくなる。王子さまの旅は、この大人化の過程の中で失われてしまう純真さや柔軟な発想を、作品を読む私たちに思い出させてくれます。

大人たちが示す「不合理」と「孤独」:所有欲や虚栄心

王子さまが旅の途中で出会うのは、「王様」「うぬぼれ男」「実業家」「酒飲み」「地理学者」など、一風変わった大人たち。それぞれが象徴するのは、大人が陥りがちな自己中心性偏狭な欲望、あるいは無意味なこだわりです。

  • 王様:全てを支配しているつもりでも、実際には誰にも命令が通じていない
  • うぬぼれ男:他者の目を気にして賞賛ばかりを求め、自分を本当に理解することなく生きている
  • 実業家:星を数えて所有しようとするが、それが具体的にどんな価値をもたらすのかは考えない
  • 酒飲み:酒を飲むことで自分の恥を忘れようとするが、飲むこと自体が再び恥を生み出す
  • 地理学者:実際に旅をせず「はかないものは価値がない」と断じる

これらの人物はコミカルに描かれていますが、背後には大人社会の矛盾空虚さが鋭く提示されています。子供のころにまっすぐ見えていた世界が、大人になると理屈や慣習、欲望にまみれて本当に大切なものを見失ってしまう――本作の皮肉と警鐘が垣間見えるエピソードでもあるのです。

キツネの言葉が示す「時間をかけたものこそ、大切になる」という真理

王子さまが地球で出会うキツネは、本作の中でも重要な存在です。キツネは「王子さまが時間をかけて世話をしたバラこそが、何よりも大切」だと語り、「大切なものは目に見えない」という言葉を残します。
ここには人間関係の本質が示唆されています。誰かと時間を共有し、互いに影響を与え合うことで、その人を大切に思うようになる。そこに費やした時間思いこそが、相手の価値を決定づけるのだとキツネは教えているのです。単なる所有欲や見た目の美しさではなく、「自分が相手のために費やした尊い時間」こそが、本当の絆を育むのだと気づかせてくれます。

失って初めてその価値に気づく:バラと王子さまの関係

王子さまは自分の星のバラに対して「あまりに気まぐれで手に余る」と感じていましたが、地球を旅し、キツネの教えを受けることで、そのバラが唯一無二の存在であることに気づきます。
私たちもまた、身近な存在を失って初めて、その尊さかけがえのなさを痛感することが少なくありません。日常の中では見過ごしてしまうほど当たり前に思えるものが、実は非常に大きな意味を持っていたとわかるのは、往々にして後のことなのです。王子さまの旅は、私たち自身の人生においても「失う前に大切さを知る」大事さを示唆しています。

大人になるということ:純粋さを失うのか、それとも抱え続けるのか

飛行士である「ぼく」は、子供のころ「象を呑み込んだウワバミ」の絵を大人たちに理解してもらえず、やがて絵を描くことをやめてしまいました。これは、大人になる過程で経験する「周囲に合わせるために想像力を封じ込める」プロセスとも言えます。
王子さまとの出会いは、彼にもう一度子供の頃の純粋な発想好奇心を思い出させます。大人になった後でも、子供のような柔軟性や驚きの感性を持ち続けることは、本当に可能なのか――その問いこそが、本作を大人にも愛される理由のひとつではないでしょうか。

「大人になる」ことと「子供の心を忘れない」ことの両立

仕事や家庭などの責任を負いながら生きる大人にとって、子供のようなピュアな心を維持するのは決して楽ではありません。社会には数多のルールや価値観があり、それに従わないと日々を乗り越えられない現実があります。
しかし、王子さまが出会った大人たちのように「自分だけの狭い世界」を守り続けていると、いつの間にか大事なもの本当の喜びを見失ってしまいがちです。だからこそ、「大人としての責任」を果たしつつも、時に子供のように無垢な疑問を持ち続ける姿勢が、大切なものを失わない秘訣なのかもしれません。

人生のはかなさと再生:「星」を見上げるという行為

物語のクライマックスで、王子さまは自分の星へ帰る決意をします。それは、サハラ砂漠で出会った「ぼく」に別れを告げるということでもあります。実際に王子さまは翌日、その姿を消してしまいますが、「星を見上げれば、僕を感じられる」という言葉を残します。
ここには別れと喪失、そしてその先にある再生が象徴されています。大切な人や時間が消えてしまっても、その記憶は星のように私たちの心の中で輝き続ける――そうした詩情が、本作の最後に深い余韻を与えてくれます。

「本当に大切なものは目に見えない」:社会に埋没する前に思い返すべき言葉

情報や評価がすぐに可視化される現代社会では、目に見えない価値を軽視しがちです。しかし『星の王子さま』は、「見えないものこそが人生を支える柱になる」というメッセージを、やさしく、けれど力強く伝えています。
私たちがかつて子供として過ごした時間と、そのときに抱いた好奇心や夢。あるいは、大人になってから育んだ人間関係信頼といったもの――それらは目に見える形では測れないけれど、一度自分の中に根づいたら簡単には消え去りません。
日常の忙しさに埋没してしまう前に、王子さまの問いかけを思い返すことで、自分自身の人生が本当に目指すべき方向や、守っていくべき価値がクリアになるかもしれません。

所感

純粋な疑問を持ち続けることの大切さ
実際に読み返してみると、王子さまはわからないことがあればどんなことでも尋ね、納得がいかなければさらに問いを繰り返します。大人の社会でそれをするのは勇気のいることですが、こうした探究の心対話の姿勢が、人生に彩りを与えてくれるはずです。

自分の「バラ」は何かを考える
私たちにもきっと「バラ」に相当する存在があるのではないでしょうか。家族、友人、趣味、仕事――時間と労力を注ぎ込んだものだからこそ愛おしく、失いたくないもの。それを認識し、大切に思うことが、悔いのない人生を送る鍵になると思います。

見るだけではわからない、本質を感じ取るために
地位や名誉、他者からの評価は「目に見える」かもしれませんが、それらが心を満たすかどうかは別問題です。王子さまの物語を思い返せば、本当の幸せや価値というのは、見えない形で自分の中に積み重なっていくものだと気づけるでしょう。

まとめ

忘れてしまった「子供の心」を取り戻すために
『星の王子さま』は、童話という形式を取りながらも、大人としての知識や経験を積み重ねた今こそ噛みしめるべき深遠なメッセージが詰まった作品です。

大切なことに気づくのは、往々にして遅すぎる
王子さまがバラの尊さに改めて目覚めたのは、旅を重ねてからでした。私たちも、失ってはじめて気づくことが多々ありますが、この物語は「失う前に理解する」可能性を示唆してくれます。

後悔しない生き方のための一冊
忙しさや常識の枠に押し流される前に、『星の王子さま』の言葉を思い返してみましょう。子供のころの感性や純粋な夢、それらを全て捨て去るのではなく、今の自分の人生にどう活かすかを考えるきっかけになるはずです。

一瞬で過ぎてしまう時間が、実は何よりもかけがえのない宝物だったと、後になって気づく――そんな経験を避けるためにも、時には立ち止まって星を見上げるような心の余裕を保ちたいものです。王子さまが残した教えは、私たちが見落としていた大切なものを再発見するための大きなヒントになるでしょう。

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プロフィール
あつお

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