著者・出版社情報
著者：ダニエル・ヤーギン
出版社：日経BP
発行年：2022年（原著は2020年）
概要
『新しい世界の資源地図: エネルギー・気候変動・国家の衝突』は、エネルギー市場と地政学の関係を長年研究し続け、世界的にも著名な専門家であるダニエル・ヤーギン氏が、「シェール革命以降のエネルギー業界の変化」「再生可能エネルギーの台頭」「ロシア・中国・米国などのパワーバランス」「気候変動対策と化石燃料の行方」などを広範囲に分析した一冊です。
エネルギー資源がどこから供給され、誰がその生殺与奪を握っているのか——これは現代社会のあらゆる領域に影響を及ぼす重要なテーマとなっています。本書では、歴史的視点と最新の市場動向を融合し、世界中で起こっているエネルギー争奪戦を立体的に描き出しています。
「なぜ米国はシェール革命でエネルギー輸出国になれたのか？」「中国は一帯一路を通じてどのように資源ルートを確保しているのか？」「ロシアはエネルギーを武器にどう政治的影響力を高めているのか？」「気候変動はエネルギー業界の勢力図をどう変えつつあるのか？」——こうした問いに対して、歴史と政治、経済、そして環境政策の視点から包括的に解説しているのが特徴です。
活用法
本書は、単なるエネルギー論や経済学の解説書ではなく、地政学・国際政治・産業論が複雑に絡み合う問題を理解するための総合ガイドとも言えます。ここでは、本書の知見をどのように活かし、どのような学習・ビジネス上の意思決定に役立てられるか、具体的な観点から整理します。
1. エネルギー市場を包括的に理解するための資料として
・複数国・地域のエネルギーポリシーとその背景が俯瞰的にまとめられているので、エネルギー業界やインフラ関連の業務に携わる人には必読書と言えます。
・世界中で進行中の「シェール革命」「一帯一路」「脱炭素（再生可能エネルギー）」「LNG市場の拡大」などのキーワードを一度にカバーできるため、日常的に国際ニュースや経済ニュースを追っている方にも役立ちます。
実践方法：
- グローバル戦略を立案する企業（商社、金融機関、総合エネルギー企業など）は、本書の各章で取り上げられている事例を社内研修資料として活用し、競合分析や市場分析に役立てる。
- 政府・自治体の関係者は、地域のエネルギー政策を立案する際のバックグラウンドとして参照し、最新の世界潮流を把握する。
- 投資家や個人投資家も、セクター選び（石油・ガス、再生可能エネルギー関連など）の指針を得る上で活用可能。
2. 地政学の視点を獲得するためのリファレンス
・エネルギーは単なる資源ではなく、国家戦略そのものであり、本書はその背景にある「地政学的な駆け引き」を詳しく描写しています。
・中国、ロシア、アメリカ、中東諸国など、主要プレイヤーがエネルギーをどう「武器化」してきたかを理解できるため、国際情勢を読み解く際の良質な参考資料となります。
実践方法：
- 外交・国際政策を学ぶ学生や研究者が、地政学とエネルギーの交錯点を深く掘り下げる際に必読。
- 海外展開を目指す企業のリスクマネジメント担当が、各国のエネルギー・政治リスクを評価する際に引用。
- マスコミ・ジャーナリストは、国際ニュースを論評する際の「歴史的背景」と「パワーバランス」を整理するために利用。
3. 気候変動とエネルギー転換の現状と課題を把握する
・本書では、再生可能エネルギー（太陽光・風力など）の進展と、その課題（コスト、送電網、貯蔵技術、政治的障壁）を具体的に挙げています。
・パリ協定や各国のCO2削減目標に対する取り組みが、実際にどう進行しているかを俯瞰できるため、「グリーンビジネス」や「脱炭素経営」に興味のある人にとっても有用です。
実践方法：
- SDGsやCSR担当者が、自社のサステナビリティ戦略の方向性を検討する際に、国際的な動向を把握する。
- 環境NPOや教育機関で、学生や市民に「再生可能エネルギー導入の現実」を説明するための教材として活用。
- 投資家（ESG投資家含む）は、低炭素技術や関連インフラに対する長期的視点を得るため、本書のデータや分析を取り入れる。
4. 歴史と現在の接点を理解するためのツール
・本書は現代のエネルギー問題を、20世紀からの歴史的変遷と結びつけて解説しており、単なる「ニュースの羅列」ではない深い理解が得られます。
・オイルショック、冷戦後の再編、9.11やイラク戦争を経た米国の方向転換など、歴史的出来事が現代のエネルギー地図をどう形作ったかが詳細に示されています。
実践方法：
- 歴史教育や国際関係の授業で、「エネルギー史」を補足資料として生徒・学生に紹介。
- 国際関連の会議や勉強会で、「歴史の教訓と現代のエネルギー課題」を論じる際の基礎文献として活用。
5. ビジネス戦略・投資判断の羅針盤として
・シェール革命以降の米国エネルギー産業の変化、中国のEV戦略、欧州の脱炭素政策、中東の動向など、多様な要素が交錯する中での企業戦略や投資判断を考える上で、本書の視点は極めて有用です。
・石油メジャーから再生可能エネルギー企業まで、世界のエネルギー企業がどんなシナリオを描いているのかを把握することで、自社や自分の投資方針のヒントが得られます。
実践方法：
- 経営層や企画部門が、未来のエネルギー価格や供給リスクを踏まえた事業計画を策定する際に参照。
- ベンチャーキャピタルやPEファンドが、「クリーンテック」「バッテリー技術」「水素エネルギー」など新興領域への投資判断を検討する際に、本書の分析を踏まえてリスク評価。
所感
本書を読むと、「エネルギーとは単に物理的な資源ではなく、国家戦略・産業構造・環境政策・技術革新など多面的な要素が絡み合う複合的テーマである」と再認識させられます。著者ダニエル・ヤーギンは『石油の世紀』など、歴史的視点からエネルギーを語る名著を数多く執筆してきた実績があり、その豊富な知識と分析力が本書にも存分に生かされています。
特に印象的なのは、シェール革命という大きな転機により、アメリカがエネルギー輸入国から輸出国へと変貌し、それが世界の政治力学をどう変えたか、そして中国が「一帯一路」を通じてエネルギー輸送ルートを確保しようとする狙い、さらにロシアがガスパイプラインを武器化してヨーロッパに影響力を及ぼすという構図。こうした大国の思惑に対抗する形で、中東諸国は自国の利権を守りつつ、OPECとしても影響力を維持しようとしている。
また、再生可能エネルギーが普及していく一方で、完全な「脱炭素社会」への道のりは楽観できない現実も描かれており、「数十年後まで化石燃料は相当量の需要を維持する」とする予測は、多くの読者に新たな視点を与えてくれるでしょう。
こうした複雑な世界情勢を「地図」のように整理してくれるのが本書の最大の魅力であり、単なるニュースの羅列や短期的な価格予測ではなく、エネルギー市場を総合的に俯瞰するレンズを提供してくれる点で非常に価値が高いと思います。
まとめ
- エネルギー市場は、国際関係・地政学と不可分な存在であり、シェール革命以降、アメリカの役割が大きく変化した。
- 中国の「一帯一路」は、エネルギー輸送ルートの確保や資源獲得という地政学的意図を含んでいる。
- ロシアは天然ガスや石油を政治的な武器として使い、ヨーロッパなどに影響力を及ぼしている。
- かつてOPECが石油市場を牛耳っていた時代は過去のものとなりつつあるが、依然として中東諸国は無視できない存在。
- 再生可能エネルギーが普及し、エネルギートランジション（脱炭素社会）に向かう動きは加速しているが、化石燃料への依存はまだしばらく続く。
- 本書は、エネルギーと地政学の絡み合う複雑な構図を歴史的視点と最新の市場動向を組み合わせ、わかりやすく整理
- ビジネス戦略、投資判断、国際情勢の理解など、多方面で役立つ「総合ガイド」として必読の一冊。
国際政治や経済を読み解く上で、エネルギーが果たす役割はますます大きくなっています。「資源地図」が塗り替えられるこの時代、本書はエネルギー市場の新たな地平を見通すための最良の手がかりを与えてくれるでしょう。
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