著者:ウェイン・C・ブース,グレゴリー・G・コロンブ,ジョセフ・M・ウィリアムズ,ジョセフ・ビズアップ,ウィリアム・T・フィッツジェラルド
出版社:ソシム
リサーチは現代社会において非常に重要な要素であり、単に情報を得るだけでなく、それを他者に正確に伝える技術が不可欠です。知識を個人の中に留めず、広く共有することで、社会全体が進化してきました。しかし、知識の共有が適切に行われなければ誤解を招く恐れがあり、逆に悪影響を及ぼすこともあります。本書『リサーチの技法』は、そうした知識の正しい調査方法と記述方法について述べており、学問やビジネスにおいて非常に有用な一冊です。
①つながり
リサーチを行う際、最初に重要なのは「つながり」です。ここで言うつながりとは、リサーチャーと読者との対話です。書かれた文書は、その場限りのものではなく、未来の読者にとっても価値ある対話の一部となります。リサーチや論文を書く行為は、読者との対話を想定した出発点なのです。
リサーチに基づく書物は、書き手の知識を体系的にまとめ、読者に伝えるために存在します。歴史を振り返れば、数多くの書物がテクノロジーの進化とともに世界中に広まり、多くの人々の知識を豊かにしてきました。書き手は自分の知識をただ整理するだけでなく、世界中の読者にその知識を共有することを目指します。その相乗効果によって、さらに新しい研究や発見が生まれるのです。
②問い
次に、リサーチを始める上で重要なのが「問い」です。リサーチの出発点は、何を問いかけるかということにかかっています。例えば、旅に出る際に目的地を決めなければ、どんなに早く進んでも目的地に到達することはできません。リサーチも同様で、まずは明確な問いを立て、それを出発点とすることが重要です。
問いは漠然としたものでも構いませんが、適切に絞り込むことで、リサーチの方向性が定まります。問いを明確にすることで、他のリサーチャーや読者にとっても理解しやすい議論が可能となり、その問いがリサーチ全体の基盤となります。適切な問いを立てた後は、その問いに答えるために、既存の情報源を調査し、議論を進めていくのです。
③議論
最後に、リサーチをまとめる段階では「議論」が重要です。この段階において初めて、リサーチャーと読み手の会話が本格的に始まります。議論を進める際には、読者が自然と次の展開を予測できるような流れを作ることが望まれます。そのため、文章の構造を工夫し、わかりやすくする必要があります。
具体的には、書物の冒頭で議論の大枠を示し、課題や解決策、結論が読者に理解しやすい形で提示されるべきです。その後の詳細な部分では、問いがどのように形成され、その理由がどのように導き出されたかをエビデンスとともに説明します。リサーチ全体がひとつの物語のように、読者に理解されやすくなるよう、時間をかけて推敲していくことが求められます。
所感
私たちが普段リサーチや報告書を書くとき、その方法や構造を深く考えずに進めることが多いです。しかし、本書を読むことで、リサーチの本質は読者との対話であり、その対話を円滑にするために適切な問いと明確な議論が不可欠であることに気づかされます。単に事実を伝えるだけでなく、それをどのように伝えるかという「伝達の技法」が重要であると改めて実感しました。
まとめ
本書『リサーチの技法』は、リサーチを進める上での具体的な手法やフレームワークを提示してくれる一冊です。これからの時代、情報を正確に伝えるスキルはますます重要となります。リサーチに限らず、日常的な仕事の中でも、自分の考えやアイデアを伝える場面は多々あります。その際に本書で学んだ技法を活用し、より効果的な情報共有ができるよう努めていきたいと思います。
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