著者・出版社情報
著者:ダイヤモンド社編集部(『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』編集チーム)
出版社:ダイヤモンド社
概要
本号の『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2025年3月号「新たなビジネスを創造できる会社」では、企業がどのようにして新規事業を継続的に生み出すか、また成熟した環境や安定した立場からどのように抜け出し、さらなるイノベーションを推進していくかを多角的に探求しています。
ここでは、大企業や成熟した産業が新たな挑戦をするうえでどのようなステップを踏む必要があるのか、リーダーやチームの重要性、そして個人の過信による失敗リスクと謙虚さの大切さなど、幅広いトピックが取り上げられています。
また、KDDIのような大企業の実例から、社内体制の整備やトップマネジメントの姿勢、さらに現場と経営層が一丸となって同じ方向を向くための方法論が示されており、具体的なステップがわかりやすく解説されています。さらにP&Gやエマソン・エレクトリックなど、アメリカを代表する企業事例も豊富で、伝統を持つ企業がどのように環境変化に対応し、新規事業を確立し、継続していくかについての知見も多数得られます。
本特集のさらに興味深いポイントは、ビジネス全般で注目を集める生成AI(LLM)のサプライチェーンや意思決定の迅速化への活用、営業とマーケティングの連携によるシームレスな顧客体験をいかに提供するか、そしてコーポレートガバナンスにおける取締役会の重要性など、「企業がイノベーションを生むために何が必要か」を多角的に論じている点にあります。
幅広い企業事例と学術的な研究結果が複合的に紹介されていることで、読者は自社や自身のキャリアに落とし込みやすいヒントが数多く見つかるでしょう。
活用法
新規事業創出のプロセスを自社に落とし込むリファレンスとして
本特集では、探究・コミットメント・スケールアップという大企業におけるイノベーションの3ステップや、既存事業が成熟した状態からどのように新規領域へ飛び込むか、といったポイントが整理されています。たとえば、「まずは小規模テストを行い、成長の見込みが立ったものにリソースを集中的に投入してスケールアップする」という指針を自社プロジェクトに応用すれば、リスクを最小化しながら新規ビジネスを始動できる可能性が高まります。
大企業ほど、新規事業のアイデアを温めるための社内ルールや承認プロセスは複雑化しがちですが、本誌で紹介されている事例から学ぶことで、余計なプロセスを省き、スピーディに実行へ移すための参考にできるでしょう。
リーダーシップとチーム構築の指針を得るために
成熟した企業がイノベーションを起こすには、従来の成功体験にとらわれない強いリーダーシップと、適切なチーム編成が欠かせません。本誌に登場するKDDI社長やP&Gの研究開発ディレクターの事例では、トップダウンで方向性を示しつつも、実際に現場を取り仕切るチームに十分な権限が与えられるフラットな仕組みが効果的であると説かれています。
ロケットの発射に例えられるように、限られた燃料(リソース)や限られた時間の中で最大限の成果を生み出すには、確固たるビジョンを掲げ、それに賛同する優秀な人材をチームの座席に並べることが必要です。新たなビジネスを始める際、リーダーシップを発揮すべき場面やチーム全体を動機づける方法を学ぶ上でも、本誌の具体的事例は大いに参考になります。
“謙虚さ”を保ちながら個人と組織を成長させるために
今回の特集で取り上げられる「自信過剰」のリスクや、ダニング=クルーガー効果に関する言及は、イノベーションとは直接関係ないように見えますが、実は大企業の失速を防ぐうえで重要な要素です。初心者ほど自分を過大評価し、ある程度の成功体験を積むと逆に変化に対応できずに業績を低下させるケースが散見されます。
この特集を読むことで、自分自身や組織の能力を客観視し、必要なサポートや能力開発を怠らない文化を醸成するヒントを得られるでしょう。上司・部下間のフィードバックの質を高める、他部門との連携をしやすくするなど、“謙虚さ”を組織文化に取り入れる具体的手法を探るきっかけとしても役立ちます。
成熟した産業での変革型イノベーションを起こす具体策として
P&Gのような有名企業が成熟産業でも新たな価値を創造する4つの方法を解説する論文は、どんな業界にも応用可能な普遍的な内容が含まれています。自社が「成熟産業だから新しいことを始めるのは難しい」と決めつけるのではなく、既存の枠組みを活かしつつ、顧客体験を再定義したり、研究開発を外部と連携したりといった具合に、斬新な手法を取り込むことでイノベーションを実現している事例は多く存在します.
本誌の内容を参考に、自社の中核事業を一旦俯瞰し、「これは変えられない」と思い込んでいた部分を改革する可能性を探ってみましょう。
LLM(生成AI)や部門連携、ガバナンスへの示唆を得るためのツールとして
今回の特集で触れられているサプライチェーンの迅速な意思決定に向けた生成AIの活用事例は、より広義の「DX推進」に結びつく内容です。サプライチェーンに限らず、在庫管理や市場予測、販売戦略など、AIを活用することで人間だけでは難しかった複雑なデータ分析を短時間で行い、事業判断に生かすことが可能です。本誌はそれを踏まえた応用イメージやエキスパートの視点を示しているため、AI導入時のリスクや検討ポイントを整理する際に活用できます。
また、営業とマーケティングの連携を強化することの重要性、取締役会が気候変動などの社会課題に向き合う必要性など、経営全体を俯瞰できる論考が多く収録されています。デジタル監視による従業員の生産性低下リスクや、CEOとCMOの関係が事業成長に大きく影響することも指摘されており、企業運営のあらゆるレイヤーにわたって参考にできる内容が詰まっています。こうした最新の知見をヒントに、自社の部門連携やガバナンス体制を見直してみることで、一歩進んだ経営判断につなげられるでしょう。
学習用マテリアルとしての深い読み込み
本特集には学術的な研究を基盤にした論文が多く、ハーバード・ビジネス・レビューらしい学究色が強い内容を体験できます。企業事例と学術的フレームワークが混在しているため、経営学やリーダーシップ論、イノベーション論の教材としても優れています。大学やビジネススクールにおけるケーススタディとしてはもちろん、社内勉強会のテキストとして活用してみるのもおすすめです。
参加者それぞれが論文から学んだことや課題点を持ち寄り、自社の課題解決に向けたディスカッションを行えば、形だけの勉強会に終わらず、実際のアクションにつながりやすくなるでしょう。
個人のキャリア構築にも応用
本誌で紹介される原理や事例は組織単位での成長戦略にとどまらず、個人のキャリア形成にも通じるものがあります。とりわけ、自分のスキルを過信しない謙虚な姿勢や、自身の持つアイデアをいかに周囲と協力して形にしていくかといった点は、社内起業や副業を進める上でも大いに参考になります。
「自分だけのアイデア」ではなく、「チームや他部門と協働して企業の枠組みを変えていく」という思考を持つことで、より大きな成果を期待できるでしょう。
所感
安定している企業やビジネスほど、実は変化の兆しを見落としやすく、変革のスピードが遅れるものです。本特集では、そういった“安定の罠”から抜け出し、組織として新たな一歩を踏み出す際に何が必要かを再確認させてくれます。ビジネスの最前線で指揮を執る経営者やリーダーへのインタビューは、現場のリアルな声が含まれているためとても説得力があり、理論だけでなく実践に役立つポイントも多く得られました。
特に、ダニング=クルーガー効果に象徴される「自信過剰への注意喚起」は、すべてのビジネスパーソンが気をつけるべき視点です。これは個人だけでなく企業全体にも当てはまります。成功体験が積み重なった企業ほど「うちはこれでうまくやれてきた」という自負が生まれやすくなり、新しい挑戦を拒みがちになります。しかし、ここで紹介されている企業事例や研究成果を読むと、そこに陥らず常に組織を活性化させている企業には、必ず「現状を再点検し、改革する姿勢」が根付いていることがわかります。
まとめ
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2025年3月号「新たなビジネスを創造できる会社」は、現在のビジネスが成熟し、ある程度の安定を得ている企業こそ、改めて読んでおきたい特集です。大企業が新しいチャレンジをする際に必要な考え方やステップ、組織体制づくりのノウハウが豊富に詰まっており、これからの企業経営に必須となるリーダーシップ、チームビルディング、謙虚さ、ガバナンス、そして生成AIを含む最新技術との向き合い方など、幅広いトピックが網羅されています。
新たなプロジェクトを立ち上げようと考えているリーダーや、マンネリ化した組織を活性化させたい管理職、さらには会社員として自身のキャリアを模索している人にとっても、本特集号は多くの学びとヒントを得られる一冊です。成熟企業であるほど挑戦しがたいイノベーションも、正しいプロセスと姿勢を身につければ大きく花開く可能性を秘めています。
この機会に、安定した環境にあぐらをかくことなく、革新の波を起こすための具体的な道筋を、ハーバード・ビジネス・レビューの提案から学んでみてはいかがでしょうか。
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