有害な男性のふるまい: 進化で読み解くハラスメントの起源 【性的対立について学ぶ本】

BOOK

著者・出版社情報

著者:デヴィッド・M・バス

出版社:草思社

概要

有害な男性のふるまい: 進化で読み解くハラスメントの起源』は、進化心理学の第一人者として世界的に知られるデヴィッド・M・バスが、人間社会で多発するセクシュアルハラスメントドメスティックバイオレンス、さらにはストーカー行為などの“男性による有害行動”を進化論の視点から分析した一冊です。社会的・法的にはいずれも深刻な犯罪行為迷惑行為として扱われるこれらのふるまいが、なぜ今なお後を絶たずに続いてしまうのか。本書は、その生物学的かつ遺伝子レベルでの理由を浮き彫りにし、そこから私たちがどのように対処策を導き出すべきかを提案しています。

たとえば、男性の嫉妬独占欲、破局後のストーキングなど、現実的に見れば“非合理”で危険な行動であっても、一部の男性がそれを行う背景には「配偶者を確保し、自分の遺伝子を確実に残したい」という進化的動機が関係しているという視点を提示します。当然ながら著者は、こうした行動を正当化するわけではありません。むしろ、その根源が理解できれば、社会としても個人としても加害行為を抑制し、被害を未然に防ぐ対策をより効果的に講じやすくなるのではないか、と強調しています。近年、ジェンダー問題やDV被害、ストーカー対策が注目されるなか、単なる文化論や道徳論だけでなく、こうした進化心理学の視点を加える意義は十分大きいでしょう。

活用法

ジェンダーや社会問題の学際的研究に活かす

本書を読みこむことで、ハラスメントやDV性暴力などがなぜ男性から女性に対して発生しやすいのか、その進化史的背景が明確になります。これはジェンダー論や社会学、法学などの研究分野と学際的に結合できる興味深い材料です。具体的には:

  • 大学や研究機関での授業

    ジェンダー研究や社会心理学のコースで本書を教材に取り上げると、有害行為の進化的ルーツをどう捉えるかという新鮮なディスカッションができるでしょう。たとえば「なぜ男性は性的独占にこだわるのか」「なぜ女性は感情的不貞を重視するか」など、伝統的ジェンダー論とは別の視点から深化できます。

  • 社会政策へのインプット

    DV防止やストーカー規制などの法制度を議論する際、加害者の心理を「本能だから仕方ない」と放置するのではなく、「根本的衝動があるゆえに徹底的な教育や厳しい規制が必要」という論を補強する根拠になるかもしれません。

こうした形で、単なる「男性が悪い」という道徳論にとどまらず、“なぜそんな行動が繰り返されるのか”を探究し、より実効性のある対策を立案できる可能性が高まるのです。

カップルのトラブルや夫婦問題の理解に

男女が親密なパートナーシップを築いていく中で起こりがちなトラブル(嫉妬束縛暴力など)を進化的アプローチから読み解けるのも本書の魅力です。実際、カップルや夫婦間で「どうしてこんなに彼(夫)は執着するのか」「なぜこんなに束縛が激しいのか」と悩むケースは珍しくありません。

  • 嫉妬の性差

    進化心理学の研究では、男性は性的浮気に対して、女性は感情的浮気(愛情が他の女性に向くこと)に対してより強く嫉妬する傾向があるとされています。本書でもその理論を踏まえて、カップルがうまく話し合うにはどうすればいいのかが示唆されます。お互いの“嫉妬のポイント”が異なると気づくだけでも、衝突を回避しやすくなるでしょう。

  • DVの芽を早期に察知

    男性がパートナーを過度に拘束するのは、生物学的には「自分の遺伝子を確保する」ための配偶者ガードの暴走とも言えます。そのサインを速やかにキャッチし、周囲に助けを求めたり、物理的に避難したりする必要性を本書は強調しています。甘く考えると危険だ、という警鐘を鳴らすわけです。

したがって、夫婦問題のカウンセラーやカップルセラピストが本書の議論を活用すれば、男女が抱えるトラブルを生物学的・進化的な視点で説明しやすくなるでしょう。それは「互いの本能をどう折り合わせるか」を考えるヒントになり得ます。

加害防止や被害支援で“加害者心理”に迫る教材として

セクハラやDV、ストーカー被害を支援する団体や専門家にも、本書は加害者心理を知る上での有力な教材です。なぜなら、従来の手法では「加害者がなぜそこまで執着するか分からない」まま強制的に隔離して終わりという場合も多かったからです。

  • ストーカー加害者の内部動機

    進化論的には、破局後の男性が「まだ自分のものだ」という誤った所有意識を失えず、ストーキングに走ることがあります。本書を読めば、その心理的背景が単なる“性格の歪み”ではなく、“配偶者を失う恐れ”や“嫉妬”の延長にあると理解できるでしょう。そこを踏まえた介入策やカウンセリングが必要だと考えられます。

  • DV加害者プログラム

    多くの国でDV加害者向けの更生プログラムが行われていますが、進化心理学を根拠に加害者の深層心理を分析することで、そのプログラムをより実効的にできるかもしれません。“バカげた男性の本能”という言葉だけではなく、具体的な“配偶者ガードの衝動”に働きかける方法論を探れるからです。

このように、本書の知見を加害防止や支援の現場で活かせば、「なぜ暴力はダメ」以上に突っ込んだ“内面へのアプローチ”が可能になるでしょう。

一般読者が安全確保やセルフディフェンス策を学ぶ手段として

DVやストーカー、セクハラの当事者ではなくても、現代社会では誰しもが予期せず有害な男性に出会うリスクを抱えています。本書を読むことで、男性の行動パターン発生メカニズムを理解し、身を守る意識を高められます。

  • 危険なサイン

    「嫉妬が異様に強い」「束縛が増えてきた」「女性が少し他の男性と話しただけで怒る」――これらはエスカレートして暴力になる恐れがあります。進化論的背景を知れば、早期に“これ以上は危険だ”と認識しやすくなるはず。

  • 周囲との連携

    本書は、こうした問題が一対一の問題に終わらず、女性が周囲の友人や家族、専門機関の助けを借りるべきだと示唆しています。進化的に“男性が孤立した女性を狙いやすい”からこそ、ソーシャルサポートが被害を防ぐ要になる。

  • 男性側の自制

    男性読者も「自分はそんな暴力やストーカーをしない」と思っていても、“嫉妬”や“排他欲”が高まると、理性を失ってしまうリスクがある。本書を読めば、自分にも潜む危険性を認知し、抑制や適切な対処法を学ぶ契機になるでしょう。

つまり、一般読者にとっても進化論的視点は“被害回避”“トラブル予防”に大いに役立つ可能性があります。自分や大切な人を守るために、こうした知見を習得しておくのは有意義と言えます。

所感

「男性による有害行動の進化的起源」と聞くと、男性がもつ攻撃性支配欲を、さも“自然だから仕方ない”と免罪するように思われるかもしれません。しかし『有害な男性のふるまい: 進化で読み解くハラスメントの起源』を通読すると、著者はむしろ“だからこそ社会や本人が意識してコントロールしなくてはいけない”と強く訴えているのが分かります。つまり、知識は正当化の道具ではなく、抑止と救済のための武器なのだ、と。

印象的なのは、男性が嫉妬に狂う理由やストーカー化するプロセスを、過去の人類の繁殖戦略の観点で解き明かす点です。女性は妊娠すれば必ず自分の子だと分かるが、男性は常に“自分の子かどうか分からない”という不安を抱く。その不安が、不誠実なパートナーを防ぎたい欲求や、他の雄を排除する行為として時に“暴力的手段”を生むわけです。こうしたロジックに触れると、現代におけるDVやストーカー、セクハラが“突拍子もない行動”ではなく、進化史上の衝動が形を変えて現れていると捉えられます。

もちろん、現代社会の価値観や法律から見れば、その衝動を容認することはできません。一方で、本能だからといって抑え込めないわけではない。むしろ、「ここに危険な衝動が潜在している」という自覚が広まれば、教育や法整備、支援活動を通じて早期発見・早期介入が可能になるかもしれません。このように、本書の進化心理学的分析は、私たちの常識を挑発する一面を持ちつつも、深い説得力を持った提案を含んでいると感じました。

ジェンダー論や社会問題の研究者だけでなく、一般の読者が「なぜ男性の一部がそこまで暴力的になるのか?」と疑問を抱いたとき、非常に有益な視点を与えてくれるでしょう。と同時に、暴力被害に苦しむ人が読むと「あの行為は本能だから仕方ない」と受け止めるのではなく、「だからこそ社会・法律・周囲が支えて止める必要がある」と再認識できるかもしれません。この点で本書は、倫理や道徳だけでは説明しきれない加害心理の闇に光を当ててくれる存在と言えそうです。

まとめ

有害な男性のふるまい: 進化で読み解くハラスメントの起源』は、男性による暴力ストーカーセクハラなどの行動を、進化心理学のアプローチで解明しようと試みた作品です。下記のような主張が大きな柱となっています。

  • 進化的動機と有害行為: 男性が女性を強引に支配しようとする行動は、生物学的には「自分の子孫を確保したい」という本能に由来する場合がある
  • 本能=容認ではなく、理解し抑止する手立て: こうした衝動を知ることで、社会や個人が被害を防いだり、加害者を抑制したりする施策を立てやすい
  • 男女の性差: 女性の妊娠コストと男性の不確実性(自分の子か分からない)という構造が、嫉妬や独占欲の根源となりやすい
  • 相互理解と教育: DVやセクハラなどを単に“悪い”とするだけでなく、本能的メカニズムを踏まえたうえで、具体的な防止策や被害者支援を強化する必要性

進化論を用いた人間行動の説明には賛否両論があるものの、この視点を取り入れると「なぜ男性はそこまで暴力に走るのか?」という疑問に説得力ある解答が得られ、加害防止プログラム啓発活動に応用しやすくなる利点があります。また、カップル間の嫉妬・束縛がエスカレートする背景も理解できるため、恋愛トラブルやDV予防にも寄与するかもしれません。

もし社会としてセクハラDVストーカーをより一層減らしたいなら、進化論的に見た“男性の衝動”を意識した策を講じる必要があるかもしれません。そこに本書が提示する知識は大いに活きるでしょう。ジェンダー研究、社会問題への関心、あるいは自分自身や身近な人を守るために“男性の有害行動の起源”を学びたい人は、ぜひ手に取ってみてください。読むほどに、私たちが抱える性的対立ハラスメント問題を多層的に捉えられるようになるはずです。

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プロフィール
あつお

読書で得た知識をAIイラストとともに分かりやすく紹介するブログを運営中。技術・ビジネス・ライフハックの実践的な活用法を発信しています。趣味は読書、AI、旅行。学びを深めながら、新しい視点を届けられたら嬉しいです。

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