著者・出版社情報
著者:オウェイン・サービス, ローリー・ギャラガー
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
概要
行動経済学や心理学の研究が社会に広まるにつれ、「人間は案外、合理的ではないし、意志力や根性に頼ったやり方は長続きしないのでは」という見方が一般的になり始めています。しかし、実際のところ、どうしたら効率よく目標を達成できるのか。意志力に頼らずに成果を出す方法などあるのか――そんな疑問に対し、本書『根性論や意志力に頼らない 行動科学が教える 目標達成のルール』は、行動科学の視点から実践的な指針を提示します。
本書の著者オウェイン・サービスとローリー・ギャラガーは、英国政府の行動洞察チーム(通称「ナッジ・ユニット」)で中心的役割を担ってきた専門家。政府が政策レベルで人々の行動を少し変える(ナッジ)際に、意志力や強制力に依存するのではなく、「行動科学の原理に沿って環境を調整すると、人は自然に行動を変えやすくなる」という考え方を実践してきた人物たちです。そうした知見を、個人の目標達成に落とし込むのが本書の狙い。なぜ人間は目標を掲げても挫折してしまうのか、どのようにすれば続けやすくなるのか――具体的なテクニックが盛りだくさんです。
従来は「目標が達成できないのは自分の根性が足りないせい」と思い込みがちでしたが、本書を読むと、そうではなく「人間の脳や意思決定プロセスが本来、短期的な満足や誘惑に弱いようにできている」という事実が見えてきます。だからこそ、意志力を頼りにするのではなく、ちょっとした仕掛けや習慣づくりで自分の行動をサポートする方がはるかに合理的なのだと、本書は様々な事例を通じて示してくれるのです。
活用法
目標を「小さく、具体的」に切り分けて、すぐ行動に移せる形にする
意志力任せのやり方だと「よし、ダイエット頑張るぞ」と大ざっぱに決意しがちですが、本書は「大きくて曖昧な目標は、行動に繋がりにくい」と指摘します。行動科学的に見ると、人間は明確な行動プランを持たないと「まぁいいか」と先延ばししたり、最初のハードルでつまずきがちです。
そこで推奨されるのが、行動を極限まで分解して小さくすること。例えば「運動して健康になる」という目標なら、
- 毎朝起きたら10分ウォーキング
- 週に1回だけは夕食後に夜の散歩
- 通勤時に1駅分歩く
など、行動が具体的かつ着手しやすいものを設定します。こうしておけば、「明日から1時間ランニングを毎日やる」という意志力頼みの無理な計画よりずっと続けやすい。さらに「できる見込みがある」こと自体がモチベーションを維持する大きな要素になります。
また、著者たちは「小さく切り分けて、一つ成功するたびに進捗を可視化する」ことを勧めています。たとえばアプリや手帳でチェックをつけるなど、達成感を得やすい仕掛けを用意する。行動科学の実験でも、これらの小さな報酬を設定することで継続率が劇的に向上するケースが多く確認されています。
「環境設計」で誘惑を遠ざけ、意志力を温存する
人は誘惑に遭遇するたびに、欲望と戦う精神力を消耗していきます。これを「意志力の疲労」と捉えるのが行動科学の定番の見方。つまり、家にジャンクフードのストックがあると、それを見るたびに「食べたい…でもやめよう…」という内的戦いが起きて無駄に意志力を使う。その結果、本当に必要な場面で意志力が枯渇しやすくなるんですね。
そこで、本書で推奨されるのが環境設計。たとえば「お菓子をあえて買わない・目に触れにくい場所に置く」「SNSをダラダラ見がちなら、スマホのSNSアプリをホーム画面から外しておく」といった微調整を行い、「そもそも誘惑と遭遇しにくい環境」を作るわけです。これにより、意志力を無駄に消耗する回数が激減し、必要な行動に集中できる。実際に行動科学のナッジ手法では「健康に良い商品を手に取りやすい位置に置く」「定期購読を停止しやすいUIにする」などの環境設計が行われ、行動パターンに顕著な変化をもたらしているのです。
つまり「根性で誘惑に打ち勝つ」より、「誘惑を物理的・心理的に遠ざける」ほうがシンプルかつ効果的。その際、「そうするのが自分のためにベストだ」と理解し、自らが納得して環境をコントロールすることが大切です。
フィードバックをルーティン化し、成功と失敗の学習を積み重ねる
人は多忙な日常に追われると、立てた目標がどう進んでいるかを振り返る時間をとらず、いつのまにか挫折してしまいます。これを防ぐには定期的なフィードバックの時間を持つことが重要。週1回や月1回など決まったタイミングで、自分の進捗を客観的にチェックするわけです。
本書のアプローチでは、成功と失敗をともにデータ化し、単なる自己嫌悪や自己満足で終わらせない仕組みづくりが大切だと説かれます。例えば、
- 「目標達成率を数字で記録」:週に何回ウォーキングできたか、何時間勉強したかなど
- 「何が上手くいき、どこで失敗したか」を短くメモに残す
- 「失敗の原因」を次回どう回避するか、できるだけ具体的に考える
こうしたプロセスを習慣化すれば、常に改善サイクルが回り、自分なりの成功パターンや失敗パターンが見えてきます。行動科学の観点でも、「フィードバックループ」がないと人は同じミスを繰り返しがちであり、この部分が目標達成のカギになるのです。
コミットメント装置を活用し、自分を追い込める状況を作る
ダイエットや勉強など、やると決めたのに続かない……。これは、日常の誘惑が強く、かつ誰にも咎められない環境だからこそ起きる現象です。そこで本書が提案するのが「コミットメント装置」です。これは自分のやるべき行動を「周囲に宣言する」「ペナルティやリターンを設定する」などで強化し、やらないと損になる仕組みを作る方法を指します。
たとえば具体例として:
- 友人に目標を宣言:「1ヶ月で5kg減量しなかったら焼肉をおごる!」など、ちょっとした罰を約束
- オンラインで進捗を公開:SNSやブログで「毎日英単語100個勉強」を公言し、達成状況を報告
- レフリー役を設定:「達成できなかったら、○○円を寄付する」と事前に決め、友人に監督してもらう
行動経済学の世界でも「コミットメント契約」としてよく使われる手法で、「サボっても誰も気づかない」状況を変え、一種の社会的圧力や損失回避のモチベーションを利用するのです。つまりは、誘惑に弱い自己を認めつつも、システム的にそれを補おうというわけ。根性だけでは守りきれない約束でも、社会的・金銭的罰が伴えば、継続しやすくなるのは人間の自然な性質だと本書は解説します。
失敗を責めるのではなく、再チャレンジを支援する仕組みを継続する
本書は「失敗をどう捉えるか」についても丁寧に述べています。多くの自己啓発書では「失敗を恐れるな」と言うだけで終わりがちですが、本書は行動科学的に「人は必ず失敗するし、そこからどうやって再起できるよう仕組みを作るか」がポイントと語ります。
具体的には、
- 一度の失敗で目標を破棄しない:失敗を「この方法ではダメだった」と学ぶきっかけにし、別の対策を試す
- 失敗のパターンを分析:どんなシチュエーションで失敗が起きたのか、どうすれば回避できるかを言語化
- 新しい仕組みやコミットメントを導入:同じ轍を踏まないために、小さな変化を追加する
失敗を単なる「自分が駄目だった」とまとめてしまうのではなく、「何が原因で、どう補うか」を学習プロセスと捉えることで、どんどん「成功確率」が高まっていくという理屈です。精神論や自己嫌悪に陥るのではなく、行動や環境を再設計し続ける――このスタンスこそが、本書で一貫して説かれている行動科学流の「成長思考」と言えます。
所感
よくある自己啓発や目標達成の本は、「強い意志を持て」「目標を紙に書いて毎日唱えろ」など、いわば精神論が中心になりがちでした。それで結果を出せる人もいるのでしょうが、多くの場合、その根性論に続けて挫折する人が多いのも事実。
本書は、そこを「意志力や根性にだけ頼るのは危険」とはっきり言い切り、根拠ある行動科学の知見から解決策を提案している点が非常に新鮮です。例えば「コミットメント装置」や「時間を数値化する」「環境設計」など、どれも実験や研究で効果が確認されており、リアリティがあります。読んでいると「あぁ、自分がどうせ無理だと思っていたのは仕組みが足りなかっただけかもしれない」と気づかされ、心が軽くなる。「弱い自分」を責めるのでなく、「どうやって弱さを補うか」の方がずっと建設的だと痛感させられます。
実際に行動に移すハードルが低いのも魅力。小さなステップを設定するというだけなら、誰でもすぐ始められますし、日常の環境をちょっと変えるだけで効果が出るなら、試して損はありません。大きな目標に挑む人だけでなく、ちょっとした習慣(例えば早起きやデスクの片付けなど)を身に着けたい人にとっても、有益なテクニックが満載と感じました。
まとめ
『根性論や意志力に頼らない 行動科学が教える 目標達成のルール』は、実は誰もが持つ「弱さ」を前提にした、極めて実践的な目標達成のガイドブックです。
・目標を「小さく」「具体的」に落とし込むことで、着手しやすい形にする
・誘惑を遠ざける「環境設計」を行い、意志力を節約する
・フィードバックをこまめに取り入れ、進捗を可視化してモチベーションを保つ
・コミットメントレフリーや周囲への宣言など、社会的サポートとアカウンタビリティを駆使
・失敗は学びの機会として捉え、仕組みを修正して再チャレンジする
これらの考え方は、既に多くの政策や組織改革において実践され、成果を上げている「ナッジ理論」と同じ土俵に立つもの。つまり「どうせ人間は誘惑に弱いのだから、最初から弱さを見越した仕組みを作れば良い」というわけです。このアプローチなら、「自分は意志が弱いからダメだ」と自己否定しなくても、きちんと成果につなげられます。
自分が挑戦したい目標があるのに、何度も三日坊主で終わってしまう、あるいは毎回同じ挫折パターンに陥る……といった悩みを抱えている方は、ぜひ本書のエッセンスを取り入れてみてください。根性に頼るだけではない、行動科学の合理的でやさしい手法が、きっと新たな気づきをもたらしてくれるはずです。人生のあらゆる分野――仕事、学習、健康、自己啓発――で役立つ具体的なヒントが満載なので、一度読み通して自分の生活に組み込んでみると、大きな変化が訪れるかもしれません。
結局、人間は自分に甘い生き物。しかし、その甘さを責めるのではなく、甘さを「なかったこと」にするのでもなく、「甘さを考慮した上でどう工夫するか」が本書の提案です。言い換えれば、行動を起こしやすい仕掛けや他者のサポートを取り入れることで、誰でも驚くほど簡単に目標を達成できる可能性がある。これが、本書が伝える「目標達成のための極意」と言えるでしょう。
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