『成瀬は天下を取りにいく』【我道を突き進むヒロインの魅力とは】

BOOK

著者:宮島未奈
出版社:新潮社

宮島未奈の小説『成瀬は天下を取りにいく』は、誰もが心の中で感じつつも押し殺している「自分の本当の気持ち」に真正面から向き合うことの大切さを教えてくれる作品です。コロナ禍における日本社会は、同調圧力が一層強まったことで、周囲に合わせて「無難」であることが重視されるようになりました。マスクの着用が当然視され、移動の自由や行動範囲も、周囲の目を気にして自粛するなど、見えない制約に人々は縛られています。しかし、そのような時代背景にあって、この作品の主人公・成瀬あかりは、まさに「自分を貫く」ことの象徴として描かれています。

天才と変わり者の境界線

成瀬あかりは、一見すると「変わり者」として描かれるキャラクターです。彼女は周囲の常識にとらわれず、独自の道を突き進みます。たとえば、西武百貨店に毎日通うことや、お笑いのM-1グランプリに挑戦するなど、誰もが首をかしげるような行動を平然と繰り返します。彼女の行動は、周囲の期待や常識に縛られない「天才的なひらめき」に満ちており、その挑戦的な姿勢には、読む者に強いインパクトを与えます。

この「変わり者」という一面は、ただの奇抜さではなく、成瀬の内なる信念と直結しており、彼女の人生哲学そのものです。普通であれば、人目を気にして控えるような行動でも、彼女にとっては「自分らしさ」を追求する手段であり、彼女はそれを誇りに思っています。

成瀬の行動がもたらす魅力

成瀬の魅力は、その「突き抜けた個性」にあります。多くの人が持っている「内なる願望や価値観」を、彼女は隠さず、堂々と表に出します。常識に囚われずに自分のやりたいことに全力で取り組む姿勢は、私たちに「自分に正直であって良い」というメッセージを強く伝えてくれます。

他人の目を気にし、言動を抑制するのではなく、自分の道を突き進むことがどれだけ魅力的で、素晴らしいことであるかが成瀬を通じて描かれています。彼女が周囲から浮いてしまう場面も多々ありますが、その姿勢が結果的に他人からも応援されるようになるところに、彼女の人間としての魅力があるのです。

他人の感情に疎いがゆえの「正直さ」

成瀬は、他人の感情や反応に疎い一面があり、それが彼女の行動を暴走させることもあります。しかし、彼女はその結果を素直に受け止め、必要なときには謝罪することも厭いません。成瀬の「自分に正直である」というスタンスが、彼女を好ましく思わせる要因の一つです。

多くの人は、成瀬のように周囲の反応を恐れず、自分の感情や欲望を率直に表現できる人物に憧れます。しかし、それを実行に移すのは非常に難しいことです。成瀬の行動が、読者に「自分もこうありたい」と思わせるのは、まさに彼女の「正直さ」が他人に感化を与えるからでしょう。

まとめ

『成瀬は天下を取りにいく』は、成瀬あかりという強烈な個性を持つキャラクターを通じて、「自分らしさ」を貫くことの重要性を描いた作品です。彼女の天才的でありながらも変わり者としての生き方は、私たちが社会の中で抑えがちな自分の本音や願望を解放させてくれます。

この作品を通じて、私たちは「自分を偽らない生き方」の魅力に気づかされるとともに、他人に対しても、自分に対しても、もっと素直になり、自由に生きることの大切さを学びます。読者は、成瀬あかりの突き抜けた存在に共感し、応援したくなることでしょう。彼女の行動や言葉の中には、現代社会に生きる私たちにとっても多くのヒントが隠されています。

次作では、成瀬がさらにどのような挑戦を見せてくれるのか楽しみに思うと同時に、私たちもまた、自分らしい人生を歩む勇気を持って生きたいと感じさせられる作品です。

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