著者:ロルフ・ドベリ
出版社:サンマーク出版
選択とバイアスの理解
本書『Think Smart』は、私たちが日常生活で無意識に犯してしまう判断の間違い、いわゆる「バイアス」を理解し、より賢く生きるための思考法を提示しています。特に、意思決定の場面での「認知バイアス」や「感情的なバイアス」が、どのように私たちの選択に影響を与えているかを示し、それを乗り越えるための具体的な方法を紹介しています。主に、以下の3つのバイアスについて詳述しています。 ① 意思決定のバイアス ② 感情のバイアス ③ 人間関係のバイアス
① 意思決定のバイアス:リソースの限界と直感の危険
人間は限られた認知リソースを使いながら、毎日無数の意思決定を行っています。例えば、裁判官が囚人の釈放を判断する際に、食事前や仕事終わりには厳しい判断を下しやすい一方で、休憩後や始業直後には寛大な判断を下すという研究があります。これは、判断力が時間の経過とともに疲弊し、エネルギーが減少することによって、難しい決断を避ける傾向があるからです。私たちも同様に、日常生活で困難な決断を先延ばしにし、できるだけ単純化して物事を解釈しようとします。しかし、こうした直感に頼る判断は誤りを生む可能性が高いです。そこで、本書では難しい判断をする際に、冷静にエネルギーを配分し、適切なタイミングで意思決定を行う方法を学ぶことの重要性を説いています。
② 感情のバイアス:自分を過大評価しないために
自分のことを過剰に評価してしまう「感情的なバイアス」もまた、正しい意思決定を妨げる要因です。例えば、NIH症候群(Not Invented Here症候群)は、自分が作り出したものや自分に関連したものを過大評価してしまう心理状態です。これは、家具を自分で組み立てたときに愛着を感じる「イケア効果」とも類似しています。人は、時間や労力を注ぎ込んだものには特別な価値を見出しがちです。このようなサンクコストバイアスは、投資してしまったものに固執し、適切なタイミングで撤退する判断を妨げることがあります。また、占いのように誰にでも当てはまる文言を自分だけに向けられたものと感じるフォアラー効果も、感情的なバイアスの一例です。本書は、こうしたバイアスを避けるためには、自分を客観的に見つめ直し、自己評価において冷静さを保つことが重要だと教えてくれます。
③ 人間関係のバイアス:集団心理の罠
人間は、社会的動物であり、身近な集団を特別視する傾向があります。この「内集団」と「外集団」を区別する心理は、しばしば排他性や差別に繋がります。私たちは、自分と似た人々を応援し、異なる集団には警戒心を抱く傾向があります。これが差別や偏見を助長する要因です。しかし、本書では、地球上のすべての人々が一つの「地球船宇宙号」の乗組員であると考えることで、狭い視野にとらわれないようにする視点を提案しています。異なる立場の人々を理解し、共感を持つことが、健全な人間関係を築く鍵となるのです。
所感
この本を読んで改めて感じたことは、私たちの選択や行動が無意識のバイアスによって多大な影響を受けているということです。日々の判断は、その瞬間には直感的で効率的に思えるかもしれませんが、長期的に見るとその選択が間違ったものであったり、損失を招くものであったりすることが少なくありません。特に、感情に左右されてしまう判断や、自己評価の誤りは、自分の成長や周りとの関係においても大きな影響を与えます。これらのバイアスを理解し、冷静な思考を持ち続けることは、私たちが健全な選択を行い、より良い人生を送るために非常に重要です。本書が示しているように、客観的でバランスの取れた視点を持つことが、これからの私たちにとって不可欠なスキルだと感じました。
まとめ
『Think Smart』は、私たちが日常生活で直面する様々な意思決定や人間関係において、バイアスに惑わされないための具体的な方法を示してくれる一冊です。意思決定、感情、そして人間関係のバイアスを理解することで、私たちはより賢明な選択をすることが可能になります。この本を通じて、今後の人生において重要な意思決定を行う際には、短期的な利益や感情に流されず、長期的な視野を持って冷静に判断することの大切さを学びました。個人の判断力を高めるだけでなく、周囲との関係性をより健全に保つためにも、この本の教えを生かしていきたいと思います。
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