著者・出版社情報
著者: チャディー・メン・タン
出版社: 英治出版
概要
『サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法』は、世界的IT企業Googleで開発・実践されたマインドフルネスのプログラムをベースにした一冊です。検索エンジン大手というイメージからは想像しにくいかもしれませんが、Google社内では社員のストレス軽減や生産性向上を目的に瞑想や内省の手法が積極的に取り入れられています。本書では、そのプログラムを主導したチャディー・メン・タン氏が、「なぜ今この瞬間に集中することが重要なのか」「どうやって自分のメンタルを見つめ直せば良いのか」を科学的エビデンスと実践的なエクササイズとともに解説しています。
多くのビジネスパーソンにとって、目の前のタスクに追われながら多忙を極める毎日は当たり前。そこではやがて集中力は散漫になり、感情や思考がコントロールしづらくなるもの。本書が提供する手法は、その中でマインドフルネス(Mindfulness)を活用し、「今ここ」に集中することでストレスを軽減しながら創造性と幸福感を上げる知恵なのです。
活用法
マインドフルネスの真髄は「今、この瞬間に意識を向ける」ことだと本書は再三にわたって強調します。しかし、知識として知るだけでは、その効果を十分に感じられません。以下では、特に多めに文量を割いて、「いかに本書の内容を活かしてマインドフルネスを日常に取り入れ、自分の仕事・人生を飛躍させるか」という観点でまとめます。
小さな瞑想習慣をスタートする
一日5分の「呼吸への集中」から
本書には、「初心者なら5分だけでも良いから、静かな場所で座り、呼吸の感覚に意識を向ける」というアドバイスが含まれています。呼吸の「吸っている」「吐いている」を意識し、それ以外の思考が浮かんできたら、優しく呼吸に注意を戻す。
一度に長時間瞑想をしようとすると挫折しやすいので、最初は5分を継続し、慣れてきたら10分、15分と伸ばすのがポイント。
職場の昼休みや通勤時に取り入れる
忙しいビジネスパーソンは、わざわざ瞑想のための時間を作る余裕が無いと考えがち。しかし本書では「昼休みの最後5分」「通勤の電車やバスの中で」「会議の合間の短い休憩」など、小さなスキマ時間に呼吸に集中する習慣を勧めています。この“僅かな瞑想”が心身をリセットし、その後の午後の仕事をスムーズにする効果を実感できるようになるでしょう。
自分の感情を観察するトレーニングを行う
「イライラした」瞬間を捉える
業務中や日常生活の中で、ふと腹が立つ、焦る、落ち込むなど、感情の乱れを感じたら、それを「悪いこと」と否定せず「自分は今、何に対してどういう感情を抱いているか?」と客観的に認識するのです。本書では、「その感情に名前をつけ、心の中で静かに言語化する」という方法が推奨されています。
たとえば「今、自分は“怒り”を感じている」と頭の中でつぶやくだけで、怒りに巻き込まれずに一歩引いて状況を見やすくなります。
マインドフルネスの“感情ラベリング”手法
このラベリングは、「自分が何を感じているのか」を客観視するためのテクニック。本書によれば、感情をただ「良い/悪い」でジャッジするのではなく、「これは怒り」「これは不安」「これは悲しみ」といったラベルを貼ることで、感情に飲み込まれずに済むようになるそうです。これを意識的に続けると、感情のコントロールが格段にしやすくなり、相手への攻撃的な言動や、自己否定的な悪循環を減らすことができるといいます。
慈悲の瞑想や自己肯定感を高めるワークを試す
「慈悲の瞑想」で他者との共感力を育む
本書では、「慈悲の瞑想(Loving-kindness Meditation)」が紹介されています。これは、自分にとって大切な人、苦手な人、さらには全ての人に対して「幸せであれ」「心安らかであれ」と願うことで、共感力と自己の包容力を高める瞑想手法です。ビジネスの現場でも、上司や部下、取引先やクレーム客など、多様な人と接しますが、この瞑想によって対人関係のストレスが緩和され、思いやりをベースにしたコミュニケーションができるようになります。
自分を責める癖を減らすセルフ・コンパッション
一方で自分自身に対しても、「自分は失敗しても大丈夫」「自分にも優しくしていいんだ」というセルフ・コンパッションが必要だ、と本書は説きます。失敗やミスがあった際、すぐに自分を責めてしまう人には、この「自己受容」の意識が特に効果的です。日々数分でも、目を閉じて「私は大丈夫。どんな失敗にも学びがある」と心の中で唱えるだけで、長期的に自己肯定感が上がるとされています。
EQ(感情知能)を高めてリーダーシップを強化
「感情の自覚→自己制御→他者理解→対人スキル」の流れ
本書では、EQ(Emotional Intelligence)を構成する4要素——自己認識・自己制御・社会的認識・対人スキル——を高める一連の流れがマインドフルネスによって促進されると解説しています。リーダーやマネージャーが意図的にこの流れを意識すると、チームメンバーの感情にも敏感になり、適切なコミュニケーションや指導が可能となるでしょう。
“感情のパニック”に陥らないための呼吸法
会議中や商談中など、どうしても焦りや苛立ちが生じそうな瞬間に「ゆっくりと数回、腹式呼吸を行う」テクニックを本書は推奨しています。実はこれだけでも、脳のアミグダラ(恐怖や不安に関係)が暴走するのを抑えられるとのこと。リーダーとして落ち着いた判断を下すには必須のスキルと言えるでしょう。
仕事の効率と創造性を両立させるために実践
シングルタスクを徹底する「マインドフルワーク」
忙しい現場ではどうしてもマルチタスクをしがちですが、本書ではマインドフルネスを活かして「今取り組んでいる仕事だけに集中する」習慣を作ることが推奨されています。メールや電話の通知をオフにし、30分〜1時間だけ1つのプロジェクトに深く入り込む。これにより集中度が高まり、結果的には短時間で質の高いアウトプットを生むと言います。
ひらめきのための“意図的な空白”
本書の中で述べられるのは、脳のデフォルトモードネットワークが活性化する時間、つまり何も考えていないときに新たなアイデアやひらめきが生まれやすいという事実。Googleでは20%ルールなどでも示されるように、余白や自由な時間がイノベーションを促すと考えられています。そこで、スケジュールに意図的な空白時間(マインドフルネスの一環)を入れることが、斬新な発想を得る一番の近道だとわかるでしょう。
所感
IT企業発の“科学的マインドフルネス”に説得力
瞑想やマインドフルネスというと、宗教やスピリチュアルなイメージを持つ人も少なくありません。しかし本書は、Googleの社内で実践されたプログラムに基づいており、エンジニアや研究者が取り組んだ過程で立証された、より科学的な裏付けとともに語られています。したがって、“精神世界の話”だけでなく、実務に使えるツールとして身近に感じられるのが本書の強みだと感じました。
“今この瞬間”に焦点を当てる重要性を再認識
情報過多で、マルチタスクが当然となりがちな現代社会において、いかに自分が「今」をおろそかにしているかに気づかされる一冊です。絶えず未来や過去、周囲の情報へ意識が飛び散っている私たちにとって、マインドフルネスは“心を整理する”とても有効な手段。仕事の効率化だけではなく、人生全体の幸福感を高める方向へ導いてくれる内容だと思います。
まとめ
- Googleで開発されたマインドフルネスプログラムをベースに、集中力・EQ・リーダーシップを高める手法をまとめた1冊
- 「今この瞬間」に意識を向けることでストレスを軽減し、感情知能(EQ)を高め、対人スキルやリーダーシップを強化
- 初心者でも簡単に始められる瞑想や呼吸法、慈悲の瞑想など具体的なエクササイズが多数紹介
- シングルタスクや感情のラベリング、セルフ・コンパッションなど、日常や仕事に直接応用可能なポイントが多い
- IT企業ならではの科学的根拠と、仏教瞑想に通じる内省が融合しており、“スピリチュアル”に偏らずビジネス現場で使いやすい内容
コメント