著者:清武 英利
出版社:講談社
巨大な象を動かす大きな挑戦
『どんがら トヨタエンジニアの反骨』は、世界的な自動車メーカーであるトヨタ自動車における、スポーツカー復活に向けた挑戦を描いた物語です。特に、トヨタの伝説的なスポーツカー「ハチロク」と「スープラ」を開発した多田哲哉氏の奮闘に焦点を当て、企業内の保守的な風潮と戦いながら、情熱を持ってプロジェクトを推進する姿が描かれています。
トヨタ自動車の象使い
トヨタ自動車の前社長である豊田章男氏は、企業経営を象使いに例えました。トヨタという巨大な象を動かすには、社長としてその足の一本一本を精密に動かしていかなければなりません。巨大なパワーを持つ象は、一度方向を間違えると修正が困難であり、保守的な姿勢を取りがちです。この保守的な姿勢が、トヨタという企業において新しい挑戦を阻む要因となってきました。
スポーツカー復活への挑戦
電気自動車や自動運転技術が進化し、車の趣味性が低下しつつある現代において、スポーツカーは一部の愛好家向けのニッチな市場となりがちです。短期的な利益が見込めないため、企業としては優先度が低くなりがちです。しかし、多田氏は自動車を「運転する楽しさ」を象徴する存在として捉え、その復活に向けた挑戦を続けました。自動車ファンを増やし、自動車業界全体を盛り上げることを目指して、スポーツカー開発に情熱を注いだのです。
ハチロクとスープラの復活
本書では、トヨタのスポーツカー「ハチロク」と「スープラ」の復活プロジェクトにおける多田氏の奮闘が詳述されています。特に、スバルやBMWとの共同開発で直面した文化や技術の違い、協力関係を築くための困難が描かれています。スバルとの共同開発でも苦労が多かった中で、異国のBMWとの協力はさらに困難を極めました。しかし、スポーツカー復活への熱い情熱を持つ多田氏は、こうしたハードルを次々と乗り越えていきます。
所感
本書を通じて感じたのは、大企業における革新の難しさと、それを乗り越えるための情熱の重要性です。特に、トヨタのような大規模な組織において、新たなプロジェクトを推進するには、単なる技術力だけでなく、文化的な障壁や既存の枠組みを打破するための強い意志とリーダーシップが必要であることがよくわかります。多田氏が直面した数々の困難や、保守的な組織風土との戦いは、どのような業界や組織においても共通する課題であり、その中で彼が見せた情熱と信念は、多くの人々にとっての大きなインスピレーションとなるでしょう。
また、企業内のエンジニアとして働く人々にとっても、多田氏の姿勢は大きな示唆を与えるものです。技術者としての誇りを持ち、自分の信念を貫き通すことで、どんなに大きな組織の中でも革新を実現することができるというメッセージは、私自身にも強い感銘を与えました。
まとめ
『どんがら トヨタエンジニアの反骨』は、単なる自動車開発の物語に留まらず、現代のビジネス環境における革新の在り方を考えさせる一冊です。トヨタという巨大企業での挑戦は、単なる技術開発の枠を超え、組織文化の変革や、個々の情熱がいかに重要であるかを教えてくれます。多田氏が示した「運転の楽しさ」という価値を守り抜く姿勢は、現代の技術者やクリエイターにとって大きな教訓となるでしょう。
本書を読んで、私たちがこれからどのようにして新しい価値を創造し、世の中に貢献していくべきかを考える際の指針となることは間違いありません。技術革新の先にある本質的な価値を見失わず、情熱を持ち続けることの大切さを、改めて感じさせてくれる作品でした。
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