著者:朝井 リョウ
出版社:集英社
朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』は、高校生の青春と部活動を舞台に、桐島という人物の突然の退部をきっかけに、彼を取り巻く登場人物たちの内面や心情の変化を繊細に描いた作品です。物語は桐島本人が一切登場しないにもかかわらず、その不在が周囲の登場人物たちに多大な影響を与え、彼らがどのように自分の立場や価値を見直していくかが描かれています。
桐島の不在がもたらす影響
物語の中心にいる桐島は、バレー部のエースとして、学校内でも圧倒的な存在感を持っていました。しかし、彼が突然バレー部を辞めることで、桐島に依存していた生徒たちの生活に波紋が広がります。登場人物たちは、桐島の存在に依存し、自分たちのアイデンティティや価値を確認していた部分があり、その彼がいなくなったことで不安や葛藤が生じます。
バレー部キャプテンの視点
バレー部キャプテンの宏樹は、桐島の不在により部の士気が低下し、自分がその穴を埋めなければならないという重圧を感じ始めます。一方で、チアリーダー部に所属するかすみや彼女の友人で桐島の恋人である理央も、彼の退部によってグループ内のパワーバランスが変わることに不安を抱きます。
映画部の前田の視点
映画部に所属する前田の視点では、桐島の退部は直接的な影響を与えないものの、周囲の生徒たちが揺れ動く姿を観察することで、学校内のヒエラルキーを意識し、自分の居場所や存在意義についても深く考えさせられるようになります。
所感
この作品は、青春期特有の感情や孤独、自己認識の模索を繊細に描いた一冊です。桐島という象徴的な存在を通じて、他者との関係性や自己の価値観を改めて見つめ直す姿が印象的でした。桐島が不在であるにもかかわらず、彼の存在感は常に登場人物たちの心に影を落としており、その影響の大きさに気づかされます。
ヒエラルキーの崩壊
特に印象的だったのは、桐島がいなくなったことで学校内のヒエラルキーが崩壊し、登場人物たちがそれぞれの価値や存在意義に気づき始める場面です。普段は目立たない存在であった映画部の前田が、自分の趣味に没頭しながらも周囲の変化に敏感に反応する姿は、社会における個人の在り方を考えさせられました。
まとめ
『桐島、部活やめるってよ』は、高校生活という一瞬の青春を通じて、他者との関係性や自己のアイデンティティに向き合う姿を描いた作品です。桐島という象徴的な存在を通じて、登場人物たちが自分自身の価値観や立場を見つめ直す過程が繊細に描かれており、青春期特有の感情がリアルに伝わってきます。
桐島の不在が彼らにもたらす影響は、単に彼が去ったことにとどまらず、彼に依存していた登場人物たちが自分自身と向き合い、成長していく姿が描かれています。この作品を通じて、他者とのつながりがいかに自己の存在を形成する上で重要であるか、また、そこに潜む不安や孤独感がいかに影響を与えるのかを改めて考えさせられました。
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