著者:志駕 晃
出版社:宝島社
あらすじ
本書「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」は、神奈川県警サイバー犯罪対策課の刑事・桐野良一が、行方不明となった女性の調査を通じて、サイバー犯罪と連続殺人事件の闇に巻き込まれていく物語です。サイバー犯罪と現実の犯罪が交錯する緊張感の中で、桐野は連続殺人犯・浦井光治から「真犯人Mがいる」との情報を得ます。恋人・松田美乃里にも迫る危機を前に、桐野はMの脅威と対峙する決意を固めます。
登場人物
- 桐野 良一:神奈川県警サイバー犯罪対策課の刑事。元セキュリティ会社の社員。
- 松田 美乃里:桐野の恋人で、セキュリティ会社に勤務している。事件に巻き込まれ個人情報が盗まれる。
- 浦井 光治:警察に拘束されている連続殺人犯。真犯人Mについての情報を桐野に提供する。
- 兵藤 彰:松田美乃里を監視している謎の人物で、公安の捜査官。
- M(エム):仮想通貨流出事件の主犯でサイバー犯罪に長けたブラックハッカー。
- 森岡 一:桐野がかつて働いていたセキュリティ会社の社長。
- 斎藤:神奈川県警の捜査本部長。
- 牧田 光俊:神奈川県警の警務部長。
- 優香:美乃里の友人で、彼女の悩みを聞く存在。
- 長谷川 祥子:連続殺人事件の被害者で、浦井はMが彼女を殺害したと主張する。
- 吉見 大輔:長谷川の同僚で恋人。Mに関与した末に殺害される。
- 神宮寺 紗綾子:ホワイトハッカーで、Mの情報を追うも命を落とす。
- 久保田 稔と丹羽 秀一:仮想通貨流出事件の被害者である「ビットマネー社」の幹部。
- 毒島 徹:前作から登場し、浦井について桐野に語る。
物語の核心とテーマ
物語の中心には、サイバー犯罪の恐怖と情報社会の脆弱性があります。桐野とMの対決は、単なるミステリーを超え、情報と真実の脆さを鋭く描き出しています。スマートフォンや仮想通貨といったデジタルツールが持つリスクが浮き彫りにされ、現代社会が抱える脅威をリアルに感じさせられます。
所感
「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」は、現代の情報社会の脆弱性とサイバー犯罪の怖さを実感させられる作品です。サイバー犯罪とミステリーが交錯し、リアルな脅威が物語に緊張感を与えています。志駕晃氏の緻密な描写と心理描写が、物語の奥深さを一層際立たせています。
浦井とMの関係、桐野と美乃里の関係が、事件の進展と共に明らかになる過程は、読者として推理心を刺激され、私たちが信じている現実がいかに操作されやすいかを考えさせられました。さらに終盤での展開は、犯人の正体が明かされないまま終わり、不安と期待を抱かせる余韻が残ります。志駕氏は、真実にたどり着きたいという私たちの欲望を見事に操り続け、不確かな結末が読後も深く心に残ります。
まとめ
「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」は、現代社会に潜む情報の脆弱性とサイバー犯罪の恐怖を見事に描き出した作品です。本作は、私たちが無意識に使っているスマートフォンや仮想通貨といったデジタルツールが持つリスクを浮き彫りにし、デジタル社会の危うさをリアルに実感させます。サイバー空間と現実の犯罪が交錯することで生まれる緊張感は、終始目が離せない展開であり、まるで現実のニュースの一端を見ているかのような迫真の描写が読者に深く訴えかけます。
本作のもう一つの魅力は、桐野、浦井、Mといったキャラクターが織り成す心理戦です。志駕氏は、各キャラクターの背景や思考を詳細に描き出し、ただの「犯罪者」「刑事」という枠に収まらない複雑な人間関係を描きます。特に、桐野が事件を通して自らの信念と向き合い、愛する人を守るために奮闘する姿は、単なる事件解決の枠を超えたヒューマンドラマとしての深みを持たせています。
さらに、事件の謎が最後まで解き明かされない点も、本作の醍醐味の一つです。「真実に近づきたい」という読者の本能を巧みに揺さぶりながらも、全てが明らかにならない結末は、読後にも強い余韻を残します。この余韻が、逆に私たちに「真実とは何か」「現代社会での信頼の危うさ」を考えさせ、再度読み返したくなる魅力となっているのです。
志駕晃氏が描くこの作品は、ただのサスペンスやミステリー小説を超え、現代社会への警鐘としてのメッセージが込められています。デジタル化が進み、スマホや仮想通貨が日常生活に浸透する今だからこそ、本書が与える教訓は重みを持ちます。現代のデジタル社会をどう生きるべきか、そして見えない脅威とどう向き合うべきかを考えさせる、そんな思索のきっかけとなる作品です。
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