著者: ロルフ・ドベリ
出版社: サンマーク出版
思考のバイアスを知ることの重要性
合理性と非合理性のギャップ
かつての経済学では、人間は合理的に行動する存在と考えられていました。しかし、近年、経済学と心理学が融合した行動経済学の登場により、私たちの行動は感情や先入観、直感に強く影響されていることが明らかになっています。人間は、計算された理論ではなく、瞬間の感情や感覚によって判断を下し、その結果、短期的には誤った判断に至りやすい傾向があります。本書は、こうした人間の思考の落とし穴に着目し、思考の歪みを生むバイアスについて紹介しています。
自分内部のワナ
権力への盲目的な服従
自分の内なる思考の歪みのひとつに、権力に対する服従があります。例えば、上司や機長といった権威ある立場の人の意見に対し、反論を持ちながらもそれに従ってしまう傾向が強く、この服従の姿勢が結果的に誤った選択を導くことがあります。特に、危機的な状況下では、こうした権威への依存が顕著になり、判断力を鈍らせる要因になるのです。
確証バイアスとインターネットの影響
一度自分が信じた意見や考えに対して、反証となる事実を無視し、自分の信じる情報ばかりを集める確証バイアスも内部のワナのひとつです。インターネットが普及した現代では、都合の良い情報のみを収集しやすくなり、こうした傾向は一層強まっています。偏った情報を信じ込むことで、判断の偏りが大きくなり、結果的に選択の誤りを招きやすいのです。
フレーミングのワナ
言葉の表現次第で人は異なる判断を下すことがあり、これはフレーミングのワナとして知られています。同じ内容でも、「脂肪分98%カット」という表現と「脂肪分2%配合」という表現では、前者がより健康的に感じられます。このようなフレームのかけ方が、私たちの判断に大きな影響を与えているのです。
外部からの影響のワナ
社会的証明の力
私たちは他人の行動に影響されやすく、行列のある店に無意識に並びたくなる現象は社会的証明と呼ばれています。他者が支持しているものは良いものであると考えてしまうこの思考は、実際には商品の質やサービス内容とは無関係に判断を歪める可能性があります。企業はこの心理を利用し、あたかも人気のある商品であるかのように架空の評価を操作することもあります。
希少性のワナ
数が少ないものは価値が高いと感じやすい希少性のワナもまた、外部からの影響による判断ミスを引き起こします。現代では必要のない場面でも、商品やサービスが「数量限定」や「期間限定」とうたわれることで、必要以上に欲望が掻き立てられ、購買行動を誘導されることが少なくありません。
ハロー効果と外見への依存
第一印象に左右されるハロー効果も、外部のワナのひとつです。初めて会った人が魅力的な外見をしている場合、その人が持つ他の能力まで優れているように錯覚してしまうことがあります。ハロー効果は特に初対面の場面で強く作用し、私たちが相手の真の能力や性格を正確に評価することを妨げることが多々あるのです。
判断を誤らせるワナ
アンカリング効果による感覚の歪み
最初に示された数値がその後の判断に影響を与えるアンカリング効果も、人間の判断を大きく歪めます。不動産の価格提示で、初めに高額物件を見た後で安価な物件を紹介されると、本来よりもお得に感じやすくなります。こうしたアンカリングによって、私たちの金銭感覚は簡単に歪められてしまうのです。
サンクコストバイアスの罠
一度多大な時間や労力を投資してしまうと、それを捨てられなくなるサンクコストバイアスも判断を曇らせる要因です。例えば、大きな赤字を抱えているプロジェクトでも、既に投入した資金や時間を無駄にできないと考え、中止する決断が遅れることが多くあります。このバイアスにより、冷静な判断を下すことが難しくなり、非効率な状態を延々と続けるリスクがあります。
所感
本書を読んで感じたのは、私たちの思考がいかに無意識のうちにバイアスに支配されやすいかということです。冷静で論理的な判断を心がけているつもりでも、外部や内部の多くの要因によって影響を受け、最適な選択ができなくなる瞬間は多いのだと気づかされました。特に確証バイアスやアンカリング効果といった現代の情報社会では顕著なバイアスについては、自らの判断を見直す必要性を強く感じます。インターネットの普及により、自分の都合の良い情報のみを見つけやすくなる一方で、異なる視点を持つ重要性も浮き彫りになっています。今後は、こうしたバイアスを意識して「システム2」の思考を活用し、時間をかけて熟慮する姿勢を身に付けていきたいと感じました。
まとめ
『Think right』は、私たちの判断や行動に潜むバイアスを知ることで、思考の修正と冷静な選択の大切さを学べる一冊です。著者が提唱する各種バイアスは、現代社会での生活やビジネス、人間関係においても多大な影響を及ぼしており、これを知ることは自己改善の第一歩です。バイアスを知った上で、より良い判断を行うスキルが身に付くことは、自分自身だけでなく、他者に対してもより公平な目を持つことに繋がるでしょう。本書を参考に、今後は判断に時間をかけ、偏見や先入観に惑わされることなく、冷静で公正な判断を心掛けていきたいと感じました。
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