ヒトは〈家畜化〉して進化した―私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか【暴力から協調への遷移】

BOOK

著者:ブライアン・ヘア, ヴァネッサ・ウッズ

出版社:白揚社

共感力を身に付ける本

人間の脳は主に「爬虫類脳、哺乳類脳、人間脳」に例えて分類されます。爬虫類は、生命維持のために必要な本能的な活動、例えば「心拍や呼吸の維持、摂食、性活動」を司ります。それに対して、哺乳類脳は、衝動的な感情、例えば「喜び、愛情、怒り」などを司ります。最後の人間脳は、論理的で未来的な思考「知覚、記憶、言語」などを司ります。本書で扱っている家畜化は、爬虫類脳と哺乳類脳から人間脳への変化とも呼べるでしょう。そんな本書の主な内容は、①友好性の力、②不気味の谷、③友達の輪です。

①友好性の力

まず初めに、友好性の力についてです。ここではチンパンジーとボノボを例にとって説明します。どちらもハーレムを形成して、オス1匹に対してメス多数の群れを形成しています。両者の違いはその攻撃性です。チンパンジーのオスは攻撃性が高く、繁殖行動のためであれば、他の群れのトップであるオスの殺害も厭いません。それに対して、ボノボの群れは協調性が高いです。群れの中でメスが団結しており、他のオスが暴力を持って群れを支配することは不可能です。集団内のメスに友好的に近づかなければ、オスは繁殖することができません。ボノボはこうして、高い有効性により不必要な争いを回避しています。

②不気味の谷

その一方で、友好性は負の側面も帯びています。自分と同じコミュニティーに属する者に対しては強い愛情を抱く一方、異なるコミュニティーに属する存在、自分と異なる存在に対しては強い嫌悪感を抱きます。皆さんは「不気味の谷」をご存知でしょうか。自分とは似ている者の、わずかに異なる存在に対して、強い嫌悪感を抱く現象のことです。白人から見た黒人に対する強い嫌悪感はこれにて説明できます。今ほど平等性が叫ばれていなかった時代、1900年代前半のアメリカでは、映画「キングコング」を揶揄した黒人差別的なポスターがはびこっていました。自分とは異なる存在というだけで知能を低いとみなし、差別的な行動に走るのです。

③友達の輪

ではこれを防ぐにはどうすれば良いのでしょうか。それはコミュニティーを広い存在として捉えることです。地球上に住むすべての生き物を同じコミュニティーに属すると考えても良いでしょう。実際に、「人間以外の生物を含めてすべての生き物に優しさを持つ」と考える人ほど、人種差別的な思考も減少します。自分と同じコミュニティーに属する内なる集団を狭く捉えるのではなく、すべての人や生き物が同じコミュニティーに属すると考えることで、あらゆるものに寛容になれるでしょう。

最後に

本書は、あらゆる生き物がその攻撃性を減少させ、自分を地球のコミュニティー内に順応させた歴史を語ります。家畜された生き物たちは、身体的にも柔らかな印象を与える存在と変化しています。「家畜化」と言えば聞こえは悪いですが、その温厚さと協調性は私たちの生き方にも活かすことができます。多くの生物が今までどうやって生きてきたのか、どうやって進化をしてきたのか。そこから私たちがより良い生き方をするためのヒントを得られれば幸いです。本書を通じて、他者との関係を見直し、より寛容で協調的な社会を築いていきたいと感じました。私たち自身も、家畜化された生物の一部として、共存共栄の道を歩むべきだと強く思います。


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